線引き、財源で迷走した軽減税率も合意を評価し対策を求めた各紙

◆朝日ら批判は少数派

 自公両党は2017年4月に消費税率を10%に増税する際、同時に導入する軽減税率で、「酒類と外食を除く飲食料品」で合意、16年度税改正大綱を決めた。軽減税率の線引きや、それを裏付ける財源の問題で協議は長引いたが、結局、落ち着くところに落ち着いた感じである。

 合意の背後で来年の参院選での選挙協力を意識した官邸サイドの強い意向が働いたようだが、政治的な思惑とは別に、日本経済・景気への影響という点でみても妥当な線と言えるのではないだろうか。

 各紙の社説を見ると、「原点を忘れた政治決着」(朝日13日付)、「党利党略で決まるのか」(東京11日付)と批判的な論評は少数で、「円滑導入で増税の備えを万全に」(読売13日付)や「生活守る制度の定着図れ」(産経16日付)などと積極的に評価する方が多い。リベラルな毎日でさえも「『欧州型』への第一歩に」と、今回の合意内容を評価している。

 評価した各紙が共通して挙げるのは、軽減税率という制度そのものの導入が決まったことと、それによって低所得者を中心にした痛税感の緩和が期待される点だ。

 「厳しい財政事情を考慮すれば、一層の消費税率の引き上げを視野に入れざるを得ない。軽減税率の導入で、生活必需品を増税から切り離し、将来の再増税に備えられる制度となる意義は大きい」

 これは読売社説の説明だが、他の評価各紙もほぼ同様で、将来の再増税の備えを制度、「税制のインフラ」(産経)として築くことができたということである。

◆「痛税感」緩和を歓迎

 もちろん、軽減税率を設けても消費税再増税を実施すれば、ある程度の消費の落ち込みは避けられない。しかも、景気の回復に力強さが見られず、中国経済の減速などから先行きも不透明な経済情勢の中で再増税を実施した場合、過去の増税時と同様、想定以上に景気低迷が長引くことになりはしないか。

 そうなれば、想定した税収も得られなくなり、安倍政権が目標とする20年に名目GDP(国内総生産)600兆円なども、とても覚束(おぼつか)ない。

 こうした点から、再増税の見直しを求め、どうしても実施するなら、軽減税率は不可避という条件付きの評価をしたのが本紙であった。

 もう一つの評価の理由である「痛税感の緩和」は、まさにその通りで、「軽減税率は、社会保障財源を確保するための消費税増税に伴う国民の痛税感を緩和し、消費の落ち込みを和らげるものだ。国民生活に直結する食品全般の税率を抑える透明性の高い仕組みとして評価したい」(産経)というわけである。

 さらに、産経などが「大きな前進」と評価したのが、「複数の税率が混在する中で事業者に正確な納税を促すためとして、商品ごとの税率や税額を記したインボイス(税額票)の段階的な義務付けが決まったこと」である。

 インボイスの義務化は、毎日や産経などが指摘するように、年間最大6000億円に上るといわれる「益税」を少なくできる。「益税」とは、売り上げの少ない小規模事業者や中小企業に事務負担の軽減から納税の免除制度や簡易課税制度を認めることで、本来国庫に入るべき税収が業者の手元に利益として残ってしまうことだが、今回、軽減税率の導入後も、現行の免税制度や簡易課税制度は存続することが決まった。

◆益税縮小説く読、毎

 読売や毎日などは、「税率引き上げで、さらに規模が膨らむ事態は避けられない。消費者に増税を強いる以上、益税は縮小するのが筋である。逆に拡大を許してしまうのでは、国民の納得は得られまい」(読売)などとして、与党に益税の見直しについて「より真剣に検討すべきだ」と強調するが、尤(もっと)もな指摘である。

 今回の軽減税率の線引きにより、必要な財源約1兆円のうち6000億円が未定というから、インボイスが定着すればかなりの財源になろう。

 もっとも、厳密な形でのインボイス導入は21年4月からだから、まだ先の話。当面は1年かけて財源を見つけねばならないが、これには各紙とも、消費税収が使われる社会保障費ばかりでなく、それ以外の歳出の見直しからも求める。この点は同感である。

 それにしても、本紙が懸念するように、17年4月に再増税して大丈夫なのであろうか。

(床井明男)