中国失速と米国利上げの有無から世界通貨危機を観測特集した各誌

◆バブル崩壊した中国

 9月中旬、世界の金融界は米国の動きを注視した。FRB(連邦準備制度理事会)がそれまで取っていたゼロ金利政策を解除し利上げに踏み切るのではないか、という臆測があった。世界に負の影響を及ぼしている中国の景気減速に加えて、さらに米国が利上げした場合、新興国に波及して世界は金融パニックを引き起こす可能性が大きいという危機感を持っていたのである。結局、FRBは16、17日の会合の後、イエレン議長が「最近の世界経済や金融情勢が米国の経済活動を制約し、短期的に物価を下押しする可能性がある」と懸念を表明し、中国に端を発した為替・株価の混乱に対して、その影響を見極める必要があると利上げを見送った。

 ところで、今回の米国の利上げ危機騒動に対して、経済2誌が特集を組んでいた。「米中発金融パニック」(週刊ダイヤモンド9月12日号)、「世界がおびえる中国と利上げ」(週刊エコノミスト9月22日号)がそれ。仮に利上げを実施した場合、世界は再び通貨危機を迎えるといった“叫び”にも似た危機を発していたのである。実際には利上げは見送られたが、利上げに関して経済誌がどのような分析を下していたのか、という点を捉えて再読してみると興味深い。

 そもそも、今回の事件の近因は中国経済にある。

 今年6月12日、中国の株式市場を代表する上海総合指数が最高値をつけたが、それを境に3週間で3割下落した。中国の強制的な株価対策で上海市場は暴落を回避できたものの、回復までには至らず横ばい状態が続いた。ちなみに、この時期、週刊東洋経済は「ギリシャよりずっと怖い経済大国の混乱中国株ショック」(7月25日号)で特集を組み、中国のバブル崩壊を取り上げていた。

◆通貨安に陥る新興国

 確かに、その後の中国経済は一向に回復する気配を見せず、むしろ8月下旬には中国経済への懸念から世界的な株安の連鎖が進行。8月21日のニューヨークダウ平均は、530・94㌦の下落、24日には東京株式市場は前日比で900円近く下落するありさまで世界中の投資家を震撼(しんかん)させた。これに対し、中国の中央銀行に当たる中国人民銀行は追加利下げと預金準備率の引き下げというダブル緩和に踏み切り、そのおかげで金融市場は反転し落ち着きを取り戻したが、それで問題が解決したわけではなかった。9月に入って中国の製造業の景況感の悪化が明らかになると、さらに株価が下落、日経平均株価も再度急落した。

 今や中国の経済指標が出るたびに株価は下落するという傾向にある。当然、中国当局もそれに対応するが、こうした中国の利下げ圧力と米国の利上げ志向に世界各国とりわけ新興国は戦々恐々としているというのが実情。中国の経済の減速で輸出が伸び悩む中、米国が利上げすれば新興国へ流れ込んでいたマネーが流出する。そうなれば一気に通貨危機を迎える。

 「(リーマンショック後の)緩和マネーが米国の利上げ観測を契機に逆流を始め、トルコやインドネシアの通貨安を招くなど新興国を直撃している」(ダイヤモンド)とし、さらに「“爆食”によって一大消費地として急台頭してきた中国経済も減速が鮮明となり、資源需要の急減という形で資源国に大打撃を与えている。…米国と中国。世界経済をけん引してきた2つの超大国が今回の危機を招いた」というのが経済誌の結論である。

◆体質問題に識者警鐘

 ところで、こうした中国経済の減速に対してエコノミストに登場した富士通総研主席研究員の柯隆氏はその要因を次のように語る。「(共産党)一党支配の制度により種々の問題が解決されないまま、どんどん蓄積されてしまう。今の中国では、数十年もの間に解決されない種々の問題が蓄積されている状態だ。だからこそ市場は不安定化している」とし、本来構造改革しなければならない内容が、それこそ先送りされてしまった結果だというのである。

 しかも今後、構造改革が進むのかといえば、むしろ「構造改革よりは、その『真逆』の方向に走っている」という。かつて旧ソ連がそうであったように、共産党の持つ「負の体質」が今回の経済減速を引き起こした。米国のリーマンショックの時も、また今回の中国経済の減速も、その原因は「バブル」であった。そのバブルの崩壊を食い止め、ソフトランディングできるかどうか、下手をすると中国共産党体制そのものが崩壊することさえ考えられる。

(湯朝 肇)