翁長知事人権理発言を「プロ市民」の反響で針小棒大に扱う沖縄県紙

◆朝毎すら記事控えめ

 「針小棒大」という四字熟語がある。故事ことわざ辞典を繰ってみると、「針ほどの小さいものを棒ほどに大きく言うこと」とあり、誇張して大げさに言うたとえとして使う。出典がなく、どうやら和製らしい。英語では「ハエで象をつくる」などと表現する。

 では、沖縄ではどうか。差し当たり「2分間の発言を大演説と呼ぶ」がふさわしい。翁長雄志知事は先週、ジュネーブの国連人権理事会の先住民族問題を扱う会議に出席し、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する発言を行った。これを沖縄紙はこう報じた。

 「新基地は『人権侵害』 知事、国連で演説」(琉球新報)、「反辺野古 国連で訴え 知事 人権理で声明」(沖縄タイムス)。両紙そろって22日付1面トップに大見出しを躍らせた。紙面を開くと「日米の強権告発 沖縄の決意示す」(新報)、「日米差別 知事告発 世界から激励次々」(タイムス)と関連記事が続く。

 新報は前日の21日付1面に国連演説への期待を込めた社説を掲げ、タイムスも負けじと23日付で「知事訴え世界へ届く」と叫ぶ。こんな風に先週の沖縄紙は「国連演説」で埋め尽くされた。

 これほど大騒ぎする演説だったのか。国連は文字通りUN(国家の集まり)で同理事会は政府間組織だが、発言権を持ったNGO(非政府組織)がいて、今回の会議では約80のNGOが発言したという。翁長知事はその中のひとつ、日本のリベラル派NGO団体の発言枠を譲り受けてのものだった。

 それで発言時間は2分、430字余りの短さだ(知事国連演説全文=新報22日付)。人々の前で訴えるのだから演説に違いないが、「国連演説」というには気が引ける(高校生の弁論大会でも5分はある)。どう見ても針小棒大だ。

 そのことを沖縄紙も承知だが、「(短いが)これまでの主張が濃縮された内容」「歴史的なスピーチ」(タイムス23日付社説)と持ち上げ、「国連演説」との印象操作に躍起だ。さすがに全国紙はためらったと見え、扱いは小さい。翁長びいきの毎日ですら中面で3段見出し、朝日は2段見出しにとどめた(22日付)。

◆関心の低さは認める

 ただし、朝日は沖縄紙の大報道に触発されたのか、それとも批判を受けたのか、23日付総合面に「沖縄知事 国連でアピール」との記事を、重複を“恐れず”に載せた。

 だが、翁長氏の「国連演説」は海外では相手にされなかった。タイムス自身が「欧米メディアはほとんど報じず、関心の低さが目立った」(23日付=平安名純代・米国特約記者)と嘆くほどだ。NGO団体が翁長発言のほかにシンポジウムも開いたが、参会者の大半は先住民問題を扱う「プロ市民」だった。彼らのコメントで「世界から激励続々」の紙面を作ったわけだ。

 相手にされなかった理由は関心の低さだけではない。実は、翁長発言は2人の女性から木っ端みじんに反論されていた。1人は駐ジュネーブ政府代表の嘉治美佐子大使だ。会議で発言を求め、日米政府が沖縄の負担軽減に最大限努力しており、辺野古移設は人口密度の高い普天間のリスクを取り除く唯一の解決策で、1999年に県と名護市の合意を得たなどと経緯を述べ、翁長発言に反論した。

 ちなみにタイムスも新報もこの反論に触れざるを得なかったが、朝日は黙殺している。

◆県民の反論県紙無視

 もう1人は、名護市の我那覇(がなは)真子(まさこ)さんだ。産経23日付によると、移設賛成派にも発言の機会が設けられ、我那覇さんは翁長氏の「人権侵害」発言について「真実ではない。プロパガンダを信じないでください」と訴え、こう述べた。

 「沖縄が先住民の土地だと主張することで沖縄を独立に導こうとする人たち、それを支持する中国こそが地域の平和と安全を脅かし、人権への脅威だ」

 この発言は地元紙には一切載っていない。辺野古の地元の人々は移設を条件付きで賛成しているが、これを黙殺するのと同じ構図で、国際社会での賛成意見も消し去った。

 地元紙(加えて朝日)の針小棒大は、単に誇張して大げさに棒と言うだけでなく、捻(ね)じ曲げ棒にするのが特徴だ。これを正しく読むには曲げを直し、小さくするリテラシー(読む能力)が要りそうだ。

(増 記代司)