訪米した習近平中国主席に厳しく臨んだオバマ大統領を各紙が注目

◆冷めた関係が表面化

 「習氏の訪米はローマ法王訪米の熱狂でかすみ、中国が求めたとされる米議会での演説や、新たな米中コミュニケの締結にも至らなかった」(産経9月30日付・山本秀也)という記事が示すように、米中両国にとって成果の乏しいものに終わったと言えよう。

 米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席が先月25日にワシントンで行った米中首脳会談を報じた朝日(同27日付)の第1面トップ見出し「米中、対立激化は回避」「サイバー連携 合意/南シナ海 進展なし」が、そのことを端的に示していた。

 各紙もワイド解説などで、記者会見の具体的様子などを伝え会談の内実に迫った。「成果演出 冷めた内実」の見出しの朝日・「時時刻刻」(同)は「一定の成果は演出した。しかし、積み残した対立点はあまりに多く、両首脳の表情は終始硬いままだった」と総括。いつもは中国の指導者には控え気味に応対するオバマ氏が「(記者)会見では、ジャーナリストや弁護士らに対する当局の妨害や教会閉鎖などを問題視。中国政府が『核心的利益』として干渉を嫌うチベット問題にも踏み込み、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世との対話も要求。会見後に立ち去る2人は、目も合わさなかった」と「冷めた内実」を具体的にリポートしたのである。

 毎日「クローズアップ」(同)も「協調演出 隠せぬ溝」の見出しで「地球温暖化対策とサイバー攻撃については両国の協調が演出される一方、中国による南シナ海の海洋進出や人民元切り下げ問題では双方の溝が浮き彫りになった」と解説したが、取り立てて内容はなかった。

◆毎日が抗議写真併載

 毎日で注目されたのは会見で、中国の人権問題を巡る応酬があったことを詳報した記事の方だ。オバマ氏があえてダライ・ラマ14世との対話を促すなど踏み込んだのに対し、習氏が「国によって歴史や現実が違う」と反論。人権問題での溝の深さを伝えたが、ここまでは朝日同様だ。際立ったのは、このあとに続けて、習氏訪米に合わせ「中国当局によるチベットでの人権侵害などに抗議する人々」の写真を両首脳が握手する写真とセットで掲載し、中国当局の人権派弁護士らへの強い姿勢に変化がない現状などを詳しく解説したことである。

 今回の一連の報道で、人権問題で中国政府に抗議する人々の写真を掲載したのは毎日、日経(同)、小紙(同)だけで、読売、産経には人権問題に焦点を合わせた記事も掲載されなかった。この問題は常に関心を持ち続けることが重要であるだけに、毎日のこの報道姿勢に対しては労を多としたい。

 結局、今回の米中首脳会談は、サイバースパイ問題で、こうした活動をしないことを確認し、閣僚級の対話などで合意したのと、空中での衝突防止措置の枠組みの合意、地球温暖化ガスの排出量取引制度の導入などを約束したにすぎない。南シナ海問題他で習氏は力による現状変更を強行する強硬な立場を押し通したため「何とか進展を演出」(朝日社説・同)しただけ。「目に見える成果はほとんどなかった」(日経社説・同)と言ってもよく、かえって中国に対する警戒心を呼び覚ました。「問われるのは実際の行動」(読売社説・同)である。

◆習氏で「変化」と読売

 なお、読売「スキャナー」(同)に出たオバマ氏の「対中外交 習政権で変化」(小解説)にも注目したい。オバマ氏と習氏の首脳会談は今回で5回目だというが、その間の米中関係は悪化した。初訪中(2009年11月)では当時の胡錦濤主席と「21世紀の前向きで協力的で包括的なパートナー関係」(共同声明)を言うほどだったオバマ氏。それが「習政権が軍備増強で影響力を強め、アジアの中で威圧外交を展開するようになると、対中アプローチを修正。経済協力などを拡大する方針はそのままに、日本やオーストラリアなどの同盟国との関係強化に軸足を移した」のだ。

 そうした変化について、小紙(社説・同)は、米国には中国が変わるという期待(幻想)があったが「こうした楽観的な見方は大幅に薄れ、米国では中国への建設的関与に効果がないということが意識され始めている」「建設的関与とは、中国の経済を発展させ…協力すれば、いずれ中国は先進国と同じ価値観を持ち、民主化も進むだろうという考えだ」と解説。中国には「基本は『関与』だが、今後はどう関わっていくのか。検討の時期」だと警戒しつつの対中対応を求めている。

(堀本和博)