アフガン駐留は間違いと訴えるNYTと撤収計画見直し求めるWSJ
◆攻勢強めるタリバン
アフガニスタンのガニ政権がスタートして1年を経過したが、北部クンドゥズを反政府勢力タリバンが占拠したことから米軍の撤収計画を見直すべきとの見方が出始めている。タリバンは9月28日未明に襲撃を開始し、夕方までの1日のうちにクンドゥズの市内要所を占拠してしまった。
この事態に早速、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「オバマ大統領は米軍撤収を見直すべきであり、でなければイラクのような大敗北を喫することになる」と、強く警鐘を鳴らした。
米軍は、2001年タリバン政権崩壊後、国際部隊とともに駐留を開始し、ピーク時、駐留米兵は10万人にまで増強された。だが、2008年米大統領選挙で対テロ戦争を主導してきた共和党政権は敗北し、09年1月に就任したオバマ大統領の民主党政権による縮小計画のもとで、漸次、米軍は撤収した。昨年末からは1万人に縮小され、来年中には数百人のみを残し、事実上完全撤退する予定だ。
WSJは、主要都市の陥落は、「発足1年を迎えたガニ政権にとって、政治的、心理的に大きなダメージとなり」、タリバンの新リーダー、マンスール師の「威信を高める」と主張している。
クンドゥズは人口30万人を擁する同国第5の都市。タリバンが主要都市を占拠するのは01年のタリバン政権崩壊後初めてのことであり、イラクでの過激派組織「イスラム国」によるモスル支配を思い起こさせる。米軍の空爆による支援を受けた国軍によるクンドゥズ奪還が伝えられたが、政府への信頼が損ねられたことは間違いない。
WSJは、米軍撤収後のイラクで「14年6月のモスル支配前の数カ月間に『イスラム国』が勢力を増していた」ことを指摘、米軍のアフガン撤収後の危険性を訴えた。
タリバン政権当時から最高指導者の地位にあったオマル師は2年前に死亡していたことが最近確認され、後継指導者マンスール師は組織固めを進めているとみられている。
マンスール師は、アフガン政府との間では和平交渉を進めてきた。しかし、9月下旬に外国軍の撤収、米国との安保協定の破棄を求める声明を出すなど、反駐留軍の姿勢を強めていた。クンドゥズ占拠は、内部の強硬派を取り込むためとみられているが、タリバンの力を見せつけられたことで、アフガン政府、米政府は対応を迫られることになろう。
◆望めぬ状況説く矛盾
だが米政府内ではこれまでも、撤収計画の見直しを訴える声が出ていた。
米紙ニューヨーク・タイムズは3月9日付社説で「アフガン撤収を遅らせる理由はない」と撤収計画の見直しに真っ向から反対していた。
アフガン軍がタリバン掃討で効果を上げていないこと、ガニ政権、議会の腐敗などが指摘されており「ガニ氏がこの厳しい状況をひっくり返し、米軍駐留の延長がタリバン掃討と機能するアフガン国家につながる兆候はほとんど見られない」と厳しい現状を指摘、「この現状を受けて国防総省では、約1万人の米軍の縮小計画を遅らせる方向に傾いている」としていた。
ならば、撤収を遅らせ、タリバン掃討とアフガン軍の訓練、増強を助ければいいはずなのだが、ニューヨーク・タイムズの主張はその逆だった。
撤収の延期について「10年以上にわたって達成できなかった目標をいかにして達成するかについてのきちんとした説明はない」と主張、「事態を改善できる確証がないまま撤収計画を変更することは間違いだ」と訴えている。
アフガン戦争を終わらせるには、「地域政治の劇的な変化」と「戦場ではなく政治の舞台で地歩を築こうというタリバンの決意」が必要だと訴えるが、当時も現在もそのような事態が望めないことは明らかだ。
◆「怠慢」批判した英紙
英大手紙ガーディアンは、「国際社会の怠慢」が現在のアフガンの混乱を招いたと主張、「外国軍が撤収すれば、アフガンが自立すると考えるのは間違いだ」と国際社会のアフガンへの積極関与を訴えている。
タリバンの攻勢もそうだが、イラク、シリアで勢力を増している「イスラム国」が、外国軍撤収後のアフガンの空白に侵入すれば「国際社会にとって脅威となる」という危機感があるからだ。
(本田隆文)