北海道観光の魅力 自然生かし「らしさ」演出
株式会社シィービーツアーズ代表取締役社長 戎谷侑男氏に聞く
ここ数年、北海道を訪れる外国人観光客が増えている。とりわけ、台湾などアジアからの伸び率が顕著で、その傾向は将来的にも続くとみられている。その一方で、観光客の訪問先を探ると札幌を中心とした道央圏に偏りがち。道央圏以外の道北・道東圏にいかに観光客を増やすかが課題だが、その処方箋について株式会社シィービーツアーズ代表取締役社長の戎谷侑男(えびすたにゆきお)氏に聞いた。(聞き手=湯朝 肇・札幌支局長)
豊かな観光産業へ/交通アクセス充実が課題
今年度末に北海道新幹線開業/移動パターン多様化に期待
――北海道の観光事情について伺います。このところ、外国人観光客の伸びが顕著ですが、その要因として、どのような点が挙げられるのでしょうか。
日本全体で見ると、政府観光局が発表した統計によれば、2014年に日本を訪れたいわゆる訪日外国人の数は1340万人にのぼります。初めて1000万人を超えた前年の1036万人に比べると30%近い伸びを見せました。
この要因としては、現在日本政府が観光を一つの成長産業として捉え、とりわけ2020年までに「訪日外国人数2000万人」という目標を掲げて様々な施策を講じており、その恩恵が北海道にも及んでいるためと思われます。
よく、北海道の外国人観光客数は日本全体の1割といわれていますが、確かに2013年度は115万人で一割強を占めました。2014年度の数字はまだ出ていませんが、130万人は超えることは確実です。特に2013年度は初めて100万人を超えましたが(前年度比45・9%増)、その要因としては、安倍政権になって円安傾向が続いていること、東南アジア諸国に対するビザ(査証)要件が緩和されたこと、またそれらの国々と北海道の空港との直行便が開設あるいは増便されたことなどが挙げられます。
さらに、北海道を訪れる外国人が増えた理由として、北海道が一つの観光ブランドとして確立されつつあり、「四季を通して豊かな自然に恵まれていること」、「良質な温泉や食べ物が新鮮であること」、加えて「治安がいいこと」など、こういったことが諸外国に認知されてきたためと考えます。
――外国人観光客は確かに増えてきていますが、北海道観光をさらに盛り上げるにはどのような課題があるのでしょうか。
北海道の観光には三つの格差が存在するといわれています。すなわち、「季節格差」「南北格差」「東西格差」です。「季節格差」とは、四季を通じて春夏期に観光客が多く、晩秋から初冬にかけて観光客が少ないという季節に起因した格差です。つまり、冬場に観光客をいかに呼び込むか、ということが一つの課題です。「南北格差」とは、札幌以南の登別、函館といった道南地域での観光客の入り込み数に比べて、札幌から北の旭川、稚内など道北地域は少ないというもの。同じように「東西格差」とはニセコ、小樽、余市といった札幌以西の地域に比べると、釧路、根室などの道東方面が少ないという格差です。
こうした格差の弊害は、例えば春から夏にかけては「札幌のホテルは満室で予約できない」「貸切バスが足りない」「飛行機のチケットが取れない」などが挙げられます。また、新千歳空港に観光客が集中し、旭川・函館・帯広・釧路などの地方空港は閑散とした状況が続いています。こういった状況を是正しなければ、真の意味で北海道観光が充実しているとは言えないでしょう。
――道東地域などには、鶴居村の丹頂や釧路湿原、世界自然遺産の知床半島など質の高い観光資源が豊富に存在すると思うのですが。
これまで道東地域の観光が伸びなかった背景には、「発信力の弱さ」「認知度の低さ」「北海道の広さ」、そして「交通アクセスの不便さ」が考えられます。道外および海外からの観光客は、「新千歳空港イン~札幌周辺や小樽運河の観光または近郊でゴルフ~登別温泉宿泊、新千歳空港アウト」というパターンが主流となっています。北海道は広大なため、道東や道北まで足を延ばすことはなかなかできません。しかし、釧路空港に入って道東を回り、新千歳空港から帰るといったコースがあってもいいのではないでしょうか。近年、阿寒や釧路・網走のバス会社が、道東の観光名所をバスで周遊するというツアーを提供し始めています。こういったバス会社の観光コースと連携していけば、かなり魅力的な商品ができると思います。事実、旅行回数別に訪問先を見ると、札幌圏では「初めて北海道に来た」と答える観光客が多いのに対し、阿寒湖や摩周湖、屈斜路湖など道東方面では「北海道は2回目あるいは3回目」という「リピータ」の方が多いという結果になっています。それだけ道東には魅力ある観光資源が多いということではないでしょうか。
――今年度末に北海道新幹線が新青森-新函館北斗間で開業します。札幌延伸は平成42年度末開業予定ですが、北海道新幹線が開通することに対して観光業界でも大きな期待を寄せているのではないかと思うのですが。
北海道新幹線の開業で話題になるのが経済波及効果ですが、私はむしろ新幹線の開業によって「道内観光の移動パターンがどのように変化していくのか」に関心があります。そういった意味で移動手段の幅が広がり、旅行形態の多様化が進んでいくことは間違いありません。
――北海道は観光産業を基幹産業の一つとして位置付け、本道経済の牽引(けんいん)役として期待していますが、そうなるための方策についてお話しください。
北海道は広いので、いくつかの観光圏に分けて取り組むことが必要です。道東地域だけ見ても九州7県と同じ広さですから、五つくらいの観光広域圏をつくり上げることを私はかねてから申しております。ここで重要なのは、広域圏に生活する住民一人ひとりが、圏内の観光産業に参加しているという意識を持つこと、また圏内には観光カリスマと呼ばれるようなリーダーの存在が不可欠です。そうしたリーダーの下で、「人と人」「地域と地域」「自治体と民間」などがつながることで、圏内の観光産業が成長していきます。
また、近年、スマホやインターネットの普及で、観光の様式がかなり変わってきました。観光客が観光地で感動すると、すぐに家族や友人に知らせます。すると、1週間もたたないうちに友人がやってくるというのです。つまり、北海道らしさ、地域らしさを生かした観光地づくりをすることも大切ですが、そういったインターネットなどを活用して発信力を高めていくことにももっと目を向けていかなければなりません。
さらにもう一つ、観光の質を高めるには、日本の伝統・文化に触れてもらうことではないでしょうか。外国人観光客が日本に来て望むことは、単なる観光ではなく、日本古来の文化や生活習慣に触れることであり、それらを体験したいと願っています。「日本では家に入るときは靴を脱ぐ」なんていうことでも、彼らにとっては大きな体験なのです。このような体験型のイベントを盛り込んでいくことも、旅行の質を高めることにつながるのではないでしょうか。
実は今年の2月22日、札幌市内で外国人観光客を対象に一つのアトラクションを開催しました。そこでは「縄文太鼓」「日本舞踊」「空手の演武」「尺八の演奏」「よさこいソーランの舞」を披露し、最後は参加者全員が舞台に上がり、鳴子をもってよさこいソーランを踊るというものでしたが、皆感動していました。手の込んだ企画もいいですが、日本らしさ・北海道らしさを生かした観光素材をつくることが、豊かな観光産業をつくることにつながるのだと思います。