理念明確な高市、岸田氏 原発再稼働「容認」も河野氏に不安
【経済・エネルギー政策】
新型コロナウイルス感染の減少傾向がはっきりし、19都道府県に出されている緊急事態宣言の全面解除がきょう決定される。基本的な感染対策は引き続き必要だが、傷んだ経済の再生へ本格的に動く時である。
総裁選に立候補している4氏の中で、経済政策の理念を明確に打ち出しているのは高市早苗前総務相と岸田文雄前政調会長だ。
高市氏は立候補前から雑誌などで自らの政策を「サナエノミクス」と称し、大胆な金融緩和と機動的な財政出動、危機管理投資・成長投資を総動員してインフレ率2%を目指すとし、立候補時の記者会見や政策討論会でも語っている。安倍晋三前首相の「アベノミクス」と基本的考えは同じだが、違いは第3の矢の危機管理投資・成長投資だ。
危機管理投資とは、自然災害や安全保障上の脅威などの「リスクの最小化」に資する研究開発を強化すること。成長投資は日本に強みのある産業用ロボットやマテリアル、量子技術などをさらに強化し、新分野も含め国際競争力の強化に向け戦略的支援を行う。
要は「強い経済」をつくることが、結果的に財政再建や社会保障の充実にも資し、外交力や国防力、科学技術力、文化力の強化にも直結するという考え方だ。
岸田氏の方は、「小泉内閣以降の新自由主義的政策」は経済成長をもたらす一方で「持てる者と持たざる者の格差」を拡大させたと指摘し、成長とともに再分配を強化して「令和版所得倍増」「新しい日本型資本主義」の構築を目指す。具体的には賃上げを行う企業への税制支援や、医療・介護など公的分野で働く人の所得を増やす一方、科学技術立国に向け10兆円の科学技術イノベーション基金の年度内設立などを提案する。
これに対して、河野太郎規制改革担当相や野田聖子幹事長代行は、先の2氏のような体系立った経済政策の表明はない。
野田氏は2018年に出した著書の中で、アベノミクスの次のステージとして、「落ち着いて、やさしく、持続可能な国」を目標に女性、高齢者、障害者をはじめ意欲を持つすべての人の個性や能力を高めるための「未来への投資」と、誰もが公平、公正に評価され、活躍できるフェアな仕組みに向けた「規制制度の大胆な改革」の推進などを掲げる。経済政策というより社会政策という意味合いが強く、具体的な政策としてはやや抽象的だ。
河野氏に至っては、政策パンフレットの2番目に「変化の時代の成長戦略」を据えて、「持続可能な温もりある強い経済と社会を実現」として、①中小企業や個人事業主を守る②持続可能な農林水産業をつくる③デジタル、グリーンをイノベーションの核として日本の稼ぐ力を伸ばす――などの項目を挙げるが、どういう経済を目指すのか、いまひとつ明確でない。討論会でも年金制度改革やデジタル化の拡大など個別的な問題への言及にとどまり、成長戦略の全体像は見えてこない。
エネルギー政策については、4氏とも2050年のカーボンニュートラルを見据え、省エネの推進、再生エネの利用拡大でほぼ一致し、安定的で持続可能なエネルギー需給の実現が課題としている。
原発については、特に河野氏が東京電力福島第1原発事故後、「脱原発」を唱えていたが、最近は再生エネを最大限導入し、(安定需給に)足らない部分をある程度原子力で補っていくのが現実的と表明、安全基準を満たした原発の再稼働は当面容認する姿勢を示す。
ただ、マスコミの取材に「脱原発」の持論は変えておらず、「いずれなくなっていくだろう」と強調している。同氏は核燃料サイクルについても、維持を主張する3氏と違い、経済的な合理性の観点から「なるべく早く方向転換する必要がある」と主張。原発技術の維持・向上やエネルギー安全保障の視点がなく、不安に感じるのは電力業界ばかりではない。
(床井明男)
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