強まる中国の挑発、「領土領海を断固守り抜く」

海上保安庁第11管区 一條正浩・海上保安本部長に聞く

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で、中国海警船による領海・接続水域内の航行が常態化している。尖閣周辺で中国公船が確認されるのは8日時点で116日連続。同諸島が国有化された2012年9月以降、最長記録を更新し続けている。強まる中国の挑発にどう対応すればいいのか。海上保安庁第11管区の一條正浩海上保安本部長に、尖閣警備の現状などについて聞いた。(聞き手・豊田 剛)


尖閣沖で中国公船の航行が常態化、中国海警と船舶差

強まる中国の挑発、「領土領海を断固守り抜く」

海上保安庁第11管区 一條正浩・海上保安本部長(豊田 剛 撮影)

 ――尖閣諸島海域における中国公船の動きはどうか。

 昨年は中国公船が333日間、尖閣諸島の接続水域内を航行したのが確認された。1年間の確認日数としては、尖閣諸島の国有化以来、最多だった。昨年10月には最長で57時間39分、領海内に滞在した。台風と時化(しけ)以外は常に尖閣諸島周辺を航行しているという認識だ。

 接続水域内に外国船舶を確認したら、絶えず、ここが日本領海内であることを日本語、英語、中国語でアナウンスし、領海から出ていくよう警告している。

 ――日本漁船への接近・追尾のケースが今年に入って増加している。現有の体制で対抗できるか。

 第11管区は、職員数は1900人で全国の海上保安庁の中で最も人数が多い。船舶は49隻保有しているが、そのうち実際に現場に行くのは3分の2程度。残りはメンテナンスなどで動かすことはできない。

 第11管区が保有する1000㌧クラス以上の巡視船は20隻。海保全体では69隻だ。一方、中国海警局に所属する船舶は年々増え続け、昨年末の時点で131隻。この差は、未来を考えたときに心配になってくるところだ。予算を増やして、装備を増強することが必要になっている。

 第11管区には現在、回転翼航空機(ヘリコプター)を搭載できる3000㌧級のPLH型巡視船が3隻配備されている。はっきりしたことはまだ言えないが、今年度内に6000㌧クラスのPLH型巡視船が配備される予定になっている。

海警法制定でエスカレートも、県や自衛隊と連携も念頭に

強まる中国の挑発、「領土領海を断固守り抜く」

海上保安庁第11管区の所在地

 ――中国は2月1日、武器使用を認める中国海警法を施行したが、何か変化はあるか。

 海警法が制定されて以来、中国船の動きを注視しているが、現場では変化の兆しは特にない。威嚇行為が増えたわけでもない。

 とはいえ、海警法を後ろ盾に近い将来、行動がエスカレートする可能性はある。

 海保としては、①領土領海を断固として守り抜くこと②海保だけではなくて県や自衛隊など関係機関と連携をすること③事態をエスカレートさせないように冷静かつ毅然(きぜん)と対応する――という三つの柱を念頭にしっかり指揮し対応したい。

 ――自民党や野党の一部から、警備を自衛隊が補完できるようにする「領域警備法」の制定を求める声もある。何か国に要請したいことはあるか。

 海保の立場はオリンピック選手に似ていると思う。選手は常日頃、練習して鍛えて、周りに惑わされることなく、与えられた持ち場で最高のパフォーマンスをしなければならない。尖閣諸島をしっかり守り抜いて、平和の根幹となるような業務をしっかりやるだけだ。

海保は常に危険と隣り合わせ、人間力が鍛えられる仕事

 ――尖閣警備ばかりがクローズアップされがちだが、海保の仕事はどのようなものか。

 尖閣警備に代表される海洋の治安維持では海外の密航・密輸にも対応する。海難救助、海洋防災・環境の保全、海洋交通の安全確保、国内外の機関との連携・情報提供が主な任務だ。

 ――米軍普天間飛行場(宜野湾市)の代替施設の建設工事が名護市辺野古沖で行われている。海上警備についての現状は。

 辺野古沖で埋め立て工事が始まった2017年当時は激しい抗議活動が行われていた。職員は暴言を吐かれるなどだいぶ苦慮した部分がある。最近は、コロナ禍の影響もあるが、反対する人の数は少なく、比較的ルールを守りながらやっているようだ。

 ――海保を目指す人にメッセージを。

 海上保安庁は、海難事故の救助や密漁対応など、常に危険と隣り合わせの仕事だ。中でも尖閣諸島警備は重圧の中で行っている。厳しい壁を乗り越えた先には充実感がある。人間力が鍛えられる仕事でもある。


一條正浩(いちじょう・まさひろ) プロフィール

 1962年生まれ、東京都出身。海上保安大学校本科卒業。第6管区海上保安本部の交通部長、第9管区海上保安部次長、第10管区海上保安本部長などを歴任。東日本大震災や中国船による巡視船衝突事故では報道官として対応した。


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第11管区

 1972年の沖縄返還に伴い発足。沖縄県那覇市本部を置き、沖縄県のすべての水域を担当する。沖縄本島東部の中城、石垣島、宮古島に海上保安部がある。2016年には尖閣領海警備専従体制が整備された。