人権外交 対中圧力強化へ法整備進めよ
自民党外交部会の「人権外交プロジェクトチーム(PT)」が、菅義偉首相に人権を重視した外交の強化を求める提言を手渡した。
日本は民主主義や人権などの価値観を共有する欧米と連携を深め、人権外交を展開して中国への圧力を強めていくため、必要な法整備を進めるべきだ。
自民PTが首相に提言
提言は、ジェノサイド条約への加盟や、人権侵害に関与した外国の個人・団体の制裁を可能にする法整備を検討するよう要請するものだ。米国は中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定した。
NPO法人「日本ウイグル協会」は、ウイグル人の施設収容や強制労働、拷問、強制不妊手術、親子の引き離しなどが行われていると主張している。中国は否定しているが、中国の公式統計でも2014年以降、新疆ウイグル自治区で不妊手術が急増したことが明らかになった。米国も、100万人以上のウイグル人が収容所に拘留されていると指摘している。
一方、香港に対しては昨年6月に国家安全維持法を施行。中国当局の判断次第であらゆる反政府的な言動を取り締まることができる不透明な「中国式法治」を体現するものであり、香港の高度な自治を保障する「一国二制度」を骨抜きにした。さらに選挙制度を見直して民主派を排除する動きに出るなど、香港への統制を強めている。
中国共産党の一党独裁体制下における人権侵害を看過することはできない。現在は欧州連合(EU)なども加わり、日本を除く先進7カ国(G7)が対中制裁を科している。
中国の人権侵害をめぐって、日本は「深刻な懸念」を表明している。しかし具体的な行動を取らなければ、日本が中国に及び腰で人権を軽視する国家だと見られても仕方がない。
ジェノサイド条約は特定の国や民族、人種、宗教集団の構成員に対して①殺害する②肉体的、精神的危害を加える③過重労働など肉体的破壊をもたらす生活を強いる④出生を妨げる⑤子を集団から引き離す――ことをジェノサイドと定義。締約国には被害防止や加害者処罰の義務が課せられる。
19年7月現在、中国や北朝鮮を含む152カ国・地域が批准しているが、日本は国内法に処罰規定がないことを理由に加盟していない。
提言を受けた首相は、中国の新疆ウイグル自治区や香港での人権侵害について「日本の価値観外交の観点から相いれない」と述べた。条約ではジェノサイドやその共謀、扇動も処罰対象だが、日本にはこれらを罰する法律がない。法整備を行い、早急に条約加盟を実現する必要がある。
本格的な情報機関創設を
中国の人権侵害に対する日本の批判が抑制的である理由の一つとして、日本は海外で情報収集や分析を行う機関を持たないため、迫害の事実認定に慎重とならざるを得ないことが挙げられる。
人権外交を強化する上でも、本格的な情報機関の創設が求められる。