反米自虐史観の蔓延、歴史的偉人を「消去」



《バイデンのアメリカ 先鋭化するリベラル路線(5)》

 米カリフォルニア州サンフランシスコ教育委員会は1月26日、歴史的人物らの名前を冠した44の公立学校の名称を変えることを決定した。人種差別などに関わったことがその理由だという。

2020年10月11日、米西部オレゴン州ポートランドで、引き倒されたセオドア・ルーズベルト元大統領像の上に乗る抗議デモ参加者(AFP時事)

2020年10月11日、米西部オレゴン州ポートランドで、引き倒されたセオドア・ルーズベルト元大統領像の上に乗る抗議デモ参加者(AFP時事)

 新型コロナウイルス禍における学校再開の取り組みを優先するため、名称変更は一時保留になったが、多くの人を驚かせたのは、変更の対象に初代大統領ジョージ・ワシントンや独立宣言を起草した第3代大統領トーマス・ジェファソン、さらには奴隷解放宣言を出した第16代大統領アブラハム・リンカーンまで含まれていたことだ。

 左翼勢力は近年、南北戦争で奴隷制度存続を主張した南軍指導者らの銅像や記念碑を撤去する運動を繰り広げていたが、昨年全米に吹き荒れた「黒人の命は大切(BLM)」運動がこの潮流を大きく加速させた。社会から消去すべき対象が建国の指導者やリンカーンにまで拡大したのだ。

 大手ソーシャルメディアがトランプ前大統領のアカウントを閉鎖したように、米国では左翼の価値観に反する言動をした人物を社会的に抹殺する傾向が強まっている。「キャンセル・カルチャー」と呼ばれる風潮だが、左翼勢力は歴史的偉人までもキャンセルしようとしているのだ。「米国版文化大革命」と呼んでも過言ではない状況が生まれている。

 バイデン大統領はこうした社会風潮に呼応し、トランプ氏が教育現場で蔓延(まんえん)する反米自虐歴史教育を是正するために設置した「1776委員会」を就任初日に廃止した。バイデン氏は就任演説で国民の「結束」に取り組むと宣言したが、建国の歴史や理念を正しく教えることで結束を取り戻すことには全く関心がないことが浮き彫りになった。

 昨年6月の弊紙連載「1776VS1619」で報告したように、米国では最近、建国の年は独立宣言が採択された1776年ではなく、最初のアフリカ人奴隷が連れて来られた1619年だという議論が巻き起こっている。

 その火付け役がニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の「1619プロジェクト」で、米国は奴隷制に基づき建国された邪悪な人種差別国家だというダークな歴史観を植え付ける試みに他ならない。各地の教育現場では、同プロジェクトを歴史教育の教材として取り入れる動きが広がっている。

 トランプ氏の1776委員会には、1619プロジェクトに対抗する狙いがあった。バイデン氏が同委員会を廃止したことは、1619プロジェクトの歴史観に同調していることを示している。

 1619プロジェクトを立ち上げたNYTのニコル・ハナジョーンズ氏は「最終目標は賠償法案を成立させることだ」と明言している。米国が今日、経済的繁栄を享受しているのは、黒人を奴隷として働かせた結果であり、米政府は黒人に賠償金を支払う義務がある、との考えである。

 上下両院で主導権を握る民主党は、既に賠償法案を提出している。賠償法案は過去にも何度か提出されたことがあるが、採決に至ったことはない。だが、1619プロジェクトの影響により賠償論議はかつてないほど勢いづいている。

 奴隷を所有したことのない現代の白人が肌の色が白いという理由だけで、奴隷になったことのない現代の黒人に賠償金を支払わせるのが賠償法案だ。共和党からは「この法案以上に国民を分断、二極化させる不公平な法案は想像できない」(トム・マクリントック下院議員)との反発が噴出しているが、全くその通りだろう。

(編集委員・早川俊行)