児童虐待 「親となる基礎」支える社会に


 児童虐待事件の増加が続いている。警察庁によると、昨年1年間に虐待の被害に遭った18歳未満の子供は1991人、生命の危険があるなどとして警察が緊急で保護した子供は5553人を数えた。虐待の疑いで警察が児童相談所(児相)に通告した子供は9万8222人。いずれも過去最多となり、統計を取り始めた2012年以降増え続けている。

子育て力の劣化は明らか

 社会的関心の高まりや児相との連携強化で通報や情報提供が増えたことが要因の一つと警察庁などはみている。しかし、これは児童虐待の実際の件数や発生率はさほど変わらないが、通報で摘発が増えたということを必ずしも意味しないだろう。最悪の死亡事件に至るケースを見ても、状況の悪化を深刻に受け止めねばならない。

 警察が摘発した事件の加害者は、実父が913人、実母が550人、養父・継父が302人、内縁の男が187人となっている。加害者の7割以上が実の父母であることからみても、親の子育て力の劣化は明らかだ。

 親は子育てを通して親になり大人になると言われるが、そのような共に成長していくための基礎が脆弱(ぜいじゃく)になっているということである。これは、日本人および日本社会の危機と言って過言ではない。日本の社会、家族についての思想的な観点からの掘り下げが必要だ。

 子供は親の愛を受けて成長する。愛の中には忍耐や寛容も当然含まれる。これが親子関係や社会の基礎となる。

 欧米には子供を一個の人格として尊重する風土があり、児童虐待に社会が厳しい目を向けている。一方、伝統的に家族中心の日本社会では、それぞれの家庭内の問題に立ち入りにくい風土があった。しかし近年は、児童の生命や福祉は家族だけでなく社会で守っていかなければならないのが現実となった。

 こうした中で近所の大人、児相、学校、地方自治体など社会全体に求められるものは、問題に注意深く、鋭い目を持ち続けることであり、「周りがもっと注意していれば、幼い命を救えたのに」という悔いを残さない態勢の充実だ。親たちの子育て力アップもサポートしたい。

 SNSを通じて子供たちが、児童買春や児童ポルノなど性犯罪の被害者となるケースが増え続けていることも、看過できない。被害者は昨年1年間に2082人を数え、前年比271人増、統計を取り始めた08年以降最多となっている。裸の画像や動画を撮影・送信させる「自画撮り」の被害も増えており、被害者の内訳では中学生が最も多く、半数を占めている。

 増加の背景には、スマートフォンの普及がある。被害者の88・6%はスマホで接続して事件に巻き込まれているが、閲覧を制限するフィルタリングを利用していたのは13・5%にとどまっていた。

スマホ利用を放任するな

 スマホで特にフィルタリングを利用しない場合の危険性を、学校で啓発、学習する機会を増やすべきだ。親たちも子供たちのスマホ利用を放任するのでなく、一定のルールを作るなど注意深く見守る必要がある。