トランプ再選なら「安倍四選」が国益

“じゃじゃ馬”御する稀な政治家

髙橋 利行

 たかはし・としゆき 昭和18年生まれ。中央大学法学部卒。読売新聞政治部、解説部長、論説委員、編集局次長、新聞監査委員長を歴任。退社後、政治評論家。

 赤提灯(ちょうちん)で隣り合わせた飲み友達にしても、ママ友にしても、「人付き合い」というものは存外難しい。「美女と野獣」というように、当人同士にしかわからない「相性」がある。まして国家を背負って渡り合わなければならない首脳同士となると、国益やら戦略、それぞれの置かれた立場などが邪魔をして腹を割った付き合いはでき難い。

 宰相・安倍晋三とアメリカ大統領ドナルド・トランプの「波長」はぴったり合っている。片っ端から側近のクビを刎(は)ね、世界が扱いかねているトランプも、安倍晋三を「相談相手」と頼っているらしい。アメリカメディアも「稀(まれ)な政治家だ」と評している。凄(すさ)まじい勢いで海洋進出を図る中国、やたらとミサイルをぶっ放す北朝鮮、日本を目の敵にしている韓国、強大な核戦力を誇るロシアと対峙(たいじ)している日本にしてみれば、トランプの後ろ盾は心強い。

 そのトランプが、いま大統領選のライバルと、その息子の疑惑を調査するようにウクライナ大統領に圧力をかけた「権力乱用」と、「議会妨害」の廉(かど)でアメリカ議会下院から弾劾訴追されている。苦境に立たされている。裁判そのものは、民主党優位の下院と異なり、共和党優位の上院で行われるので「無罪」の可能性が高いらしいが、早合点は禁物である。

 日本にとっては、トランプが「罷免」されても大変だが、来年十一月の大統領選でトランプに代わって民主党の大統領が選ばれるような事態になったら「天下の一大事」である。アメリカ民主党も「日米同盟」の重要性は認識しているにしても、安倍晋三がトランプに深入りし過ぎたという、やっかみもある。

 十一月末、百一歳で大往生を遂げた大勲位・中曽根康弘は、時のアメリカ大統領ロナルド・レーガンと互いに「ロンヤス」と呼び合うほど信頼を深め、強固な「日米同盟」を築いた。この手法は、その後、小泉純一郎とジョージ・W・ブッシュ、そしていまの安倍晋三とトランプに引き継がれているのである。

 アメリカ合衆国憲法修正第二二条は大統領の「三選」を禁止している。だから、トランプが「再選」されてしまえば、もう後はない。二年もすれば「レームダック」となるらしい。

 だが、それは同時に、トランプに怖いものがなくなることを意味している。世界最強の軍事力を有する国家のリーダーが「手負いの猪(いのしし)」さながらに荒れ狂ったらどうなるのか。西部劇に見る「じゃじゃ馬慣らし」ではないが、手なずけることができるのは、わが宰相・安倍晋三しかいないのではないか。

 トランプが「再選」するか否かは来年末(二〇二〇年十一月)に決まる。対する安倍晋三の任期は、東京オリンピック・パラリンピックをこなした一年後(二〇二一年九月)である。安倍晋三を続投させるかどうかを決めるまでに、ほぼ一年の余裕がある。トランプが「再選」するのを見極めてから安倍晋三を「四選」させるかどうかを考えればいい。トランプを宥(なだ)めたり賺(すか)したりしながら御することは「国益」そのものだし、ひいては民主主義と自由を共有する諸国に資することにもなる。

 仮に、安倍晋三が四選を果たしても、その任期は二〇二四年九月までである。トランプの任期切れは四か月後(二〇二五年一月)となる。ふたり仲良く「アベック退陣」というのも乙なものである。万一、トランプと宰相の間でなにか「密約」があるようなら、在任中にその後始末をしてもらえば良い。

 逆に石破茂(元自民党幹事長)が、後継宰相となってトランプと渡り合う場面を想像してみよう。石破茂が、あの上から目線で、くだくだ理屈をこねて「お説教」でもしようものなら日米関係は台無しになりかねない。石破茂が優れた政治家であることは否定しないが、どうみてもトランプとは肌合いが異なる。トランプが癇癪(かんしゃく)を起こして「シンゾウを呼べ」となっても困るではないか。

(文中敬称略)

(政治評論家)