米朝非核化交渉、トランプ氏は足元見られるな
北朝鮮非核化をめぐる米朝実務者協議がスウェーデン・ストックホルムで再開され、双方の見解の食い違いが改めて浮き彫りになりつつある中、国際社会は今後の交渉の行方を注視している。懸念されるのは、来年の大統領選で再選を目指すトランプ米大統領が最終的に北朝鮮側に譲歩する恐れがあることだ。
再選左右する金正恩氏
北朝鮮が今回の実務者協議に応じたのは、米国が新しい提案を準備してくるのではないかと期待したためとみられる。
2月のハノイ米朝首脳会談が決裂した際、金正恩朝鮮労働党委員長は米国の「計算方法」が理解できないと述べ、非核化措置に対する米国の見返りに不満を示した。その後も北朝鮮は米国に「計算方法」の変更を求めていた。
対北強硬派で対話による北朝鮮非核化は困難と主張してきたボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が解任されたことも、北朝鮮が米国の軟化を期待する契機になったことは十分考えられる。
さらに実務者協議の数日前、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射したにもかかわらず、トランプ氏はこれを批判せず、米代表団は予定通り協議の場に現れた。強硬姿勢に米国は譲歩するという期待を抱かせたのではないか。
実務者協議後、北朝鮮側は「米国が旧態依然たる立場と態度を捨てられなかった」ため「決裂」したと主張。これに対し米国側は「創造的なアイデアを提示した」とし、非核化進展へ「新しい提案」をしたとも説明するなど、双方の主張は隔たりを見せた。実務者協議は主導権を握るための駆け引きの側面が多分にあり、重要なのはこれからだ。
問題はトランプ氏が北朝鮮による核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が中断されていることを自らの実績として誇示し、この状況を来年の大統領選まで維持したいと強く願っているとみられることだ。
言い換えれば、トランプ氏は自らの再選を左右する問題を、核実験・ICBM発射に踏み切るか否かという正恩氏の裁量に委ねてしまったのも同然だ。正恩氏は実験・発射中断に固執するトランプ氏の足元を見て制裁解除を迫ることができる有利なカードを手にしたと言えよう。
米国が北朝鮮に求めるべき非核化措置の最終目標は、全域での核兵器の追加生産凍結、既存の核物質、核兵器、弾道ミサイル、生物・化学兵器の廃棄、核物質生産施設の解体、これらに対する査察の受け入れなどでなければならない。
だが、正恩氏は少なくとも来年11月の米大統領選まではトランプ氏を揺さぶり、最小限の非核化措置で最大限の見返りを求めてくるだろう。トランプ氏は同盟関係にある日本と韓国の国益や北東アジアの安全を守るためにも完全非核化を最優先すべきである。
期待しづらい首脳会談
トランプ氏は年内にも正恩氏との4回目の首脳会談に臨みたい考えとも言われる。だが、トランプ氏が再選にこだわる自身の足元を見られた場合、国際社会が期待する成果を挙げるのは難しいだろう。