中国の「ハイブリッド戦」に対抗を 米シンクタンク

NEWSクローズ・アップ

 米国やその同盟・友好国は、これまで軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせた「ハイブリッド戦」を仕掛ける中国、ロシアへの対応で後手に回ってきた。米シンクタンクがこのほど、インド太平洋地域における中国のハイブリッド戦について提言を発表し、米国などが「政治戦」を含めた包括的戦略で対抗し、主導権を取り戻すべきだと訴えた。(ワシントン・山崎洋介)

「政治戦」含めた包括戦略提言

 米国を中心とした国際秩序に挑む中国やロシアは、正規戦に非正規戦、情報・サイバー戦などを組み合わせたハイブリッド戦を展開してきた。平時と有事を二分して捉える傾向がある西側諸国の隙を突くこの「グレーゾーン」戦術に対し、米国や同盟・友好国がどう対応すべきかに注目が高まっている。

中国海警局の要員

訓練する中国海警局の要員=2017年7月、海南省海口(Imaginechina時事)

 元オーストラリア情報機関トップのロス・バベッジ氏が中心となって、米シンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が先月下旬にまとめた報告書では、中国のハイブリット戦について、南シナ海への進出や東シナ海の尖閣諸島のほか、1950~51年のチベット侵攻、2017年のドクラム高原をめぐるインドとの紛争を分析した。

 結論として、米国などのこれまでの対応は「受動的かつ非戦略的」であり、「中国の反発を恐れ、抑制的で予測しやすいものだった」と指摘。このため、中国が主導権を握り、ターゲットとなる地域やタイミング、期間を意のままに選択することを許してきたとする。

 例えば、中国の海警局公船が領海侵入を繰り返している尖閣諸島周辺では、海上保安庁の巡視船が常駐態勢で警備しているが、「前線における限定的な対応」にとどまっており、「中国の勝利を遅らせる、もしくは膠着(こうちゃく)状態を維持することはできるが、中国の公船を撤退させられる可能性は低い」と評価を下す。

ロス・バベッジ氏

ロス・バベッジ氏

 報告書では、多様な政治工作と連動させた形でハイブリッド戦を実行する中国に対抗するには、より包括的な戦略が必要だと説く。その内容は、米国を中心とした国家が強固な意志と結束を示して攻撃対象となった国を支援するとともに、中国に対して代償を支払わせることや政権基盤に揺さぶりをかけることで中国を守勢に追い込むというものだ。

 例えば、冷戦期に米国がソ連に対して実行した強力な政治戦の「21世紀版」を実行することを勧める。政権による指導者の不適切な行為や汚職のほか、人権侵害やスパイ・偽情報拡散などの行為を暴露。特にこれらの情報をネット検閲システムを掻(か)い潜(くぐ)って中国国内に拡散することなどで政権への信頼を損なうことを図る。

 経済面では、輸出入制限や国際金融システムへのアクセス制限、中国に対する貿易、投資、技術的な依存度を減らすようビジネス界に働き掛けることも挙げている。

 こうした多様な選択肢を事前に準備し、状況に応じて組み合わせて用いることで抑止を図る構想だ。

 報告書では、中国によるハイブリッド戦が今後どう展開するかも予想している。

 南シナ海では、新たな人工島建設や戦闘・爆撃機部隊の配備を進めるほか、防空識別圏の設定を一方的に宣言し、この地域における他国の活動を制限。最終的には南シナ海は「中国の水域」になる可能性があると警告する。

 尖閣諸島周辺では、今後も威圧的な活動を続け、海上保安庁や自衛隊を消耗させつつ、日本が中国に対抗する意志を削(そ)ぐために政治工作を仕掛ける。そして、タイミングを見計らって、調査や気象観測などの名目で尖閣諸島に上陸することを狙うと予測する。

 現在準備中のハイブリッド戦で最大のものがおそらく台湾統一に向けた作戦だと指摘。このほか、中国による「債務の罠(わな)」にはまるスリランカ、モルディブ、トンガなどが潜在的なターゲットだとする。

 中国に正面から対峙(たいじ)することを求める今回のCSBAの提言は、「新冷戦」とも言われる覇権をめぐる米中対立の先鋭化を反映したものだ。こうした戦略が今後どうトランプ政権の政策に取り入れられていくか注目される。