米大統領の政策を全否定する日本版NW「日本を救う小国の知恵」特集
◆具体策の提示はなし
少子高齢化、人口減少、地方消滅…。わが国の暗い未来を示す言葉がメディアで繰り返し報じられる中、それでも花の便りに全国が浮き立ち、街では判で押したようなそろいのスーツを着た新入社員の集団を見掛け、まだ“イツメン”も見つけられない新入生らしき学生が所在無げに一人バスを待ち、夜の繁華街では若者グループが羽目を外す。
日本の景気はいいのか? 見掛けの春の光景には良さも感じられるが、メディア指摘のように日本が深刻な課題を抱えているのは変わらない。
毎年のことではあるが、特に地方の人口減少と都市への集中は春の人口移動で顕著になっている。子供たちの出払った地方の家庭、老人しか残らない社会構造で、近い将来消滅する自治体もあるとの警告が現実味を帯びてくる。
目に入ったのが、「『人口減少』日本を救う小国の知恵」の見出し。ニューズウィーク日本版(4月10日号)だ。“救う程の知恵”があるのかと手に取った。「世界で輝く小国の知恵に学べ」として、スイス、イスラエル、ノルウェーなどを紹介しているが、これだけでは「日本を救う知恵」の具体的な提示はない。
◆文化や風土考慮せず
同誌は言う。小国の「成功の裏には共通点が1つある。自由貿易だ」と。だが「最近は風向きが変わってきた。大国がグローバル化に逆行する動きを見せれば、小国は不安になる」さらに「貿易規制が強化される時代や戦時下の状況は小国に厳しい」と指摘する。
なんだ。要するに「アメリカファースト」に代表される保護主義、もっと言えば、トランプ米大統領の政策を真っ向から批判した特集なのだ。
記事で挙げられている指数も「1人当たり名目GDP」はいいとして、「幸福度」「腐敗認識指数」「政治民主化度」「男女平等」「報道の自由度」「国際競争力」「ビジネス環境」など、もっぱら欧米のリベラルが好む物差しで、文化背景や風土などを考慮しない、「多様性」を言いながら、世界を一つの基準で測ろうとする“傲慢さ”が透けて見える。
「人生を豊かにするノルウェー式社会」の記事に至っては、「“有給”育児休暇を出せ」というだけの話だ。「大企業の労働者に子供や親の世話のために最大12週間の『無給』休暇を認めるという」「アメリカの育児介護休暇法」を「時代遅れの法律」と罵倒するのがこの記事の一つの狙いにすぎない。
言い添えておくと、「有給育児休暇」については大賛成である。実現できれば、だが。制度として整備されても、それを受け入れる企業文化があり、社会がなければ、画餅に終わる。同時に「有給介護休暇」の認知と拡充も至急の課題である。
◆国民の意識改革必要
特集の最後に「田中道昭・立教大学ビジネススクール教授」の「『人口減少』日本を救う戦略」の記事が載っていた。これがこの特集の“答え”であるはずだ。
「人口の少なさ、乏しい資源や厳しい環境をイノベーションへと転化させたスイスとイスラエル」の例を挙げて、「課題を好機と捉えれば、世界に先駆けてイノベーションを起こせる可能性もある」と指摘する。
「産業クラスター(産学官が一定地域に集積し事業連携を行う状態)を形成」「知識集約型産業に特化」などはもっともな提案だが、「日本は現実的には『失敗すると取り返しがつかない国』であり、その習慣が、イノベーションを生み出すことやリスクを取ることを阻害している」と問題点の指摘も忘れていない。これこそが問題なのだが。
日本という“風土病”への特効薬を必要としている時に、健康体(成功している国)の処方箋を聞いても意味がない。スイスやイスラエルと日本の置かれている条件等は天と地ほどに違う。
人口減少問題は社会全体の意識を換えなければ解決の道はない。1億2700万人の日本をドイツの8000万人程度に“絞る”と言った政治家がいた。経済を維持しながら、人口減少に対処するには厳しいダイエットが必要だ。「失敗を恐れずイノベーションして行く社会」というのは、確かに理屈上の結論ではあるわけだ。
(岩崎 哲)