トランプ米大統領が手掛ける地下高速鉄道敷設にケチつけるNW日本版
◆「土地収用権」で注文
トランプ米大統領が計画する、ニューヨークとシカゴ(約1200キロ)をトンネルで結び、5時間足らずで移動できる高速鉄道敷設について、ニューズウィーク日本版(2月13日号)が「『夢の超高速鉄道』は落とし穴だらけ」(タイトル)とこき下ろしている。
計画では首都ワシントンとニューヨーク、ロサンゼルスとサンフランシスコ、シカゴのダウンタウンと空港をそれぞれ地下高速鉄道で結ぶ。「ロンドンとパリを最高時速300キロで結ぶ英仏海峡トンネルのようなものだ」と解説している。
まず土地収用について。昨年12月、ゲーリー・コーン経済担当大統領補佐官が「(鉄道敷設のためのトンネル建設は)非常に優れた迅速な方法で、比較的費用効率がよく、何より政府の資金を全く使わずに済む」と発言した。
これに対し記事は「トンネルの建設費は企業が負担するが、民間の土地所有者に対しては当局が公正な時価を払う必要がある」ことを強調。「土地収用権」の行使について「右派の多くは土地収用を政府の行き過ぎとみなし、一方、左派の多くは市民を犠牲にして民間企業を利するものだと主張する」と当局と大統領の“強権”を牽制(けんせい)している。
また「線路用のトンネル建設は簡単だというコーンの主張も、裏付けを欠く」と指摘。「縦穴を掘っても地下20メートル余りまで下りていかなければならない」「掘削機などの設備を地下に入れるための開口部をどこに設けるのか(後略)」などの疑問を投げ掛け、「トンネル建設には非常にカネがかかる。地上では1ドルで建設できるものが地下では5~10ドルかかる。建設期間もはるかに長い」と退嬰(たいえい)的だ。
◆採算無理?米鉄道網
さらに「アメリカのほとんどの鉄道網は採算が取れていない」という専門家の指摘を挙げ「政府の持続的な援助が必要になるだろう」と半ば断じ、「線路を敷設した後も難題は続く」としている。
また、自然破壊につながりかねない大規模工事による気候変動の影響などに言及。種々の規制緩和がそれを促しかねないとして、「(規制緩和は)短期的には企業と株主の追い風になっても、結局は人々の健康と安全を害することになりかねない」とクギを刺す。
だが、国策レベルの大規模なインフラ建設では、財源や建設手法にある種のリスクはつきもので、その算段なり処理こそが行政の腕の見せどころというところがある。「落とし穴だらけ」と決め付け、ケチをつけているとしか思えない。
実は、高速鉄道建設の構想や計画は、前政権のオバマ大統領の提案による。「高速鉄道網整備に歴史的な投資を行って、車や航空機中心の交通手段を変革する」として、輸送手段の総体的な省エネ化を追求するのが目的だった。だがオバマ大統領は、地方自治体の反対に遭い、しかも土地収用権を行使する気もなかったのか、在任中の実現はかなわなかった。それをトランプ政権が引き継ぎ、計画の拡大枠を設け実現しようというものだ。
飛行機や自家用車が主要な移動手段の米国。街から街へ、有機的につながっているハイウエー・ネットワークの、自国経済への貢献度は、いかに強調してもし過ぎることはない。
片や鉄道網の整備は、大陸横断鉄道をはじめ、20世紀までにほぼ完成、その後、発展の余地は少なかった。カーブ軌道が多く輸送スピードも伸びず、遺物化しているという声さえあった。ところが、経済効果と省エネ対策のために打ち出されたのが鉄道高速化と鉄道網の整備。時流をにらんで選択肢の可能性を追求する米国政治のダイナミズムを見る思いだ。
◆起業家マスク氏登場
話題は「トンネルを使った」計画という点であり、それは「ベンチャー起業家イーロン・マスクのアイデア」という。マスクと言えば、次世代高速輸送システム構想を掲げ、トンネル掘削企業を立ち上げた人物だ。
記事ではこれについても公共交通機関の費用効率の悪さを言い、「難題に立ち向かうよりトンネルを掘って地下に潜る―それがトランプ流らしい」と最後まで斜に構えたトランプ批判だ。
(片上晴彦)





