米政権ロシア疑惑の行方
SNS駆使の実態判明
外国の代理人指定で米露応酬
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)はネット上で社会的なつながりを持つことができるサービスで、フェイスブックやユーチューブ、インスタグラムなどがある。
この便利な機能によって、思わぬことも生じている。ウクライナ政変時、クリミア半島に、ロシア政府はロシア人義勇兵が参加している、と発表していた。ところが、ロシア版フェイスブック「フ・コンタクチェ」(「つながり」の意)に、ロシア軍兵士がクリミアにいることを写真付きで投稿した。昨年3月には、ロシアの反体制派活動家が動画投稿サイト「ユーチューブ」に、メドベージェフ首相の汚職を告発する動画を公開した。
ところで、米国民は1日85回、5時間インターネットに接しているとのデータがある。これにロシアが目を付けた。
米大統領選で、ロシアがSNSを使ってトランプ候補を利する情報を流した実態が米SNS企業の報告や議会委員会の公聴会により明らかになってきている。
偽米国人が自動投稿システム「ボット」で情報を大量に発信、拡散させる。さらにロシアの外国向けテレビ局ロシア・トゥデイ(RT)、ラジオ局スプートニクなどが加工したニュースを流す。ところが、米主要メディアが、偽(フェイク)ニュースを報道するので、ソーシャルメディアの情報がそれを修正してくれると受け取る人々が出てきた。また、人は自分の好む情報しか目に入らないことも指摘されている。
ネット発信するロシア企業「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)社が偽名で開いたアカウントが、2015年1月から17年8月にかけて、フェイスブックで8万件、インスタグラムで12万件の政治的な投稿を行い、それが拡散され、米人口の約4割に当たる約1億2600万人が閲覧した、という。投稿内容は、意見の分かれる銃所持、移民、宗教、人種問題など米社会の分断・拡大を狙ったものであった。グーグル社は、ユーチューブにロシアの関与と思われる動画約1100本を発見した(再生約31万回)。
IRA社は、サンクトペテルブルクにある、政府の息のかかったネット工作専門会社で、総勢300~400人、12時間勤務の2交代制で、メディアにコメントを投稿、SNSを使って偽情報などを流布し、偽名でブログも開設したりする。ただ、12月中旬、同社ビルは空き家で内装工事中、リース契約募集の状態にある(土屋大洋慶大教授)。
米大統領選後、嘘(うそ)ニュースの拡散手段となったフェイスブックやグーグルは、批判にさらされ、嘘ニュースの排除や広告の停止などの対策を強いられた。たとえばツイッター社は、IRA社絡みのアカウント2752件を割り出し、閉鎖した。また、同社は、RTとスプートニクの「米大統領選介入」疑惑を理由に、両局アカウントの広告を禁止した。
グーグル社は、「偽情報の拡散」を防止するため、RTやスプートニクを主対象にニュースの格付けを行い、それに応じて配信を行う、と発表した。
民間企業の自粛措置だけでは手ぬるいと、米司法省は昨年11月、外国エージェント登録法に基づきRTを「外国の代理人(エージェント)」に指定した。
これに対しロシア司法省は、対抗措置として12月、米政府の海外放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)など9メディアを外国代理人地位法に基づき「外国の代理人」に指定した。ロシアでは、外国の代理人に指定されたメディアは、活動報告書、上層部の人事構成、外国から受け取った資金、支出状況、財産、年度会計報告書などの提出義務を課せられる。またサイトや印刷物に外国の代理人と明記しなければならない。
昨年末、オバマ政権時代の連邦捜査局(FBI)の中立性が問題視されだした。
ヒラリー・クリントン氏のメール疑惑への訴追がなかったことも槍玉(やりだま)に挙がっている。また、民主党大統領候補指名全国大会の前日に、民主党全国委員会(DNC)の内部メールを、ウィキリークスが公開した。ハッキングしたのはロシアで、ウィキリークスに流したといわれた。ところが17年に入って、米中央情報局(CIA)が、独自開発の暗号複製プログラムを使って国外のコンピューターを操作し、サイバー攻撃をロシアのせいにした、と極右ニュースサイト「ブライトバート」が報じた。さらに、実はDNCのコンピューター担当員がウィキリークスに流した、という調査報告が現れた。この担当員は、調査公開後に射殺され、しかもロシアの仕業だとの偽情報を流したのは、当時のCIA長官ジョン・ブレナン氏だったという。
トランプ大統領・陣営のロシア疑惑は、フリン前大統領補佐官の訴追と司法取引(全面協力)などで進展するかと思われた。だが、こうなるとFBIや民主党、主要メディアのアラ探しも終焉(しゅうえん)を迎えるのかもしれない。
(いぬい・いちう)






