追い詰められる米共和党

アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき

加瀬 みき

州知事選で民主に大敗
拒絶された“トランピズム”

 米共和党はバージニア州の知事選でエド・ガレスピー候補が民主党のラルフ・ノータム氏に大敗、そこにアラバマ州の上院補欠選挙で共和党候補として勝利したロイ・ムーア氏の性的暴行疑惑が深刻化し、中間選挙に向け危機感が増している。流れを変えるには税制改革法を是が非でも制定しなくてはならないが、制定はまた共和党の首を絞める材料になる可能性もある。

 共和党候補のガレスピー氏は元共和党全国委員会委員長と名の通った大物、一方ノータム副知事は地味でカリスマ性に欠ける人物とされ、投票日が近付くに従い有利であったノータム氏のリードがほぼ消えるまでになっていた。

 バージニア州知事選挙が注目されたのは接戦だったからだけではない。同州知事の任期は4年1期。大統領選挙の翌年に必ず知事が交代するため、前年選出された大統領に対する有権者による最初の評価とみなされる。

 昨年の選挙では民主党はホワイトハウスばかりでなく、上下両院ともに共和党に奪われた。また近年共和党が知事や州議会の議席を確実に増やしてきており、共和党が州知事と州議会で多数を占める州は26、一方民主党が知事職と議会で多数を占めるのはわずか6州であった。バージニア州議会でも共和党が2対1で圧倒的多数の議席を占めてきた。

 民主党が勢力を巻き返すには、まず知事選での勝利が要となる。知事には選挙区地図を承認する権限があり、それにより州議会ばかりか、連邦議会にどちらの党が議員を送り込むかにも大きな影響を与えることになる。

 7日の選挙ではバージニア州では知事ばかりでなく、州司法長官も民主党候補が勝利、州議会(下院)では民主党が少なくとも15議席伸ばした。獲得票が拮抗(きっこう)した地区での最終得票数が確定すると民主党が多数を占める可能性もある。同日行われたニュージャージー州知事選や、ニューハンプシャー州マンチェスターの市長選など他の州や地方都市での選挙でも民主党が幾つもの勝利を得た。ワシントン州では州議会が民主党多数となり、その結果、西海岸は青一色となった。

 特にバージニア州の選挙結果はトランプ大統領に対する明らかな批判票であるばかりか、共和党が採用したいわばトランピズムへの有権者の拒絶でもあった。

 昨年の選挙でヒラリー・クリントン候補は若者や女性といういわばオバマ・コアリションを十分につかめなかったが、今回の選挙では彼らの多くが投票した。今、民主党内は左派のサンダース派と中道のクリントン派に分裂しているが、アンチ・トランプで団結した。特に女性票が結果を左右したとみられるが、都市近郊在住女性がこぞってノータム氏に投票し、近郊女性の復讐と分析する評論家もいるほどであった。

 ガレスピー氏は、本来公平で穏健な人物、トランプ氏にすり寄ることはせず、距離を置いていた。しかし不法移民と過激犯罪を結び付け、シャーロッツビルでの白人至上主義者による騒動のきっかけが南軍の記念像をめぐってであったにもかかわらず、南軍の記念像を擁護することで人種問題をかき立てるなど有権者を分断させるトランピズムを用いた。

 一部熱狂的支持者を除くと、支持率の低いトランプ大統領とは距離を置きながらも、トランピズムを活用するという手法が今回成功していれば、共和党は今後の選挙でもその手法を用いることができた。しかし、ガレスピー氏の敗退でその道は閉ざされた。

 選挙前から共和党のイメージは悪かった。大統領府から上下両院までを占める共和党だが、保守的な最高裁判事任命以外は誇れる実績は上がっていない。特にオバマケア(医療保険法)廃止・代替法案成立という公約を守れていないことで、無能な約束破りの党というイメージが強くなっていたところに、バージニア州選挙結果が追い打ちをかけた。

 そこにさらにムーア氏の性的暴行疑惑である。共和党内でも女性たちの証言は信用に値するとされ、党執行部は選挙支援を取りやめた。マッコネル上院院内総務他共和党幹部はムーア氏が立候補を取りやめるよう要請しているが、同氏はあくまでも選挙を戦うとしている。しかし、徐々に民主党候補との差が広がっており、共和党はここで議席を失えば、上院で民主党との差はわずか1議席となる。

 トランプ大統領と共和党が実績を上げるには長年の公約である税制改革法を制定するしかないが、共和党内の税制の在り方をめぐる思想の相違は簡単には克服できず、そこにアンチ・トランプでの民主党の結束が強まり、さらに12月のアラバマ州選挙の結果、上院で議席を失えば、ただでさえ高い制定のハードルは超えられない恐れがある。

 法案は一時的には多くが減税の恩恵を得るが、富裕層を優遇し、数年後には中産階級は福祉などの恩恵を失い、結局生活は苦しくなるとの批判が既に広まり、国民の過半数が反対という数字も出ている。たとえ制定が実現しても新税法は野党票を1票も取れず、大多数の国民の支持も得られず、通過のために与党内で妥協に妥協を重ね欠陥の多い法、つまりはオバマケアのように時の与党の長年の夢をかなえるものの、将来的には足かせとなる可能性が高い。

(かせ・みき)