トランプ政権への不安と懸念

遠藤 哲也日本国際問題研究所特別研究員 遠藤 哲也

予測難しい内政・外交
個人的関係深めた安倍首相

 大方の予想を裏切って、当選したトランプ第45代米国大統領は選挙戦の最中から激しい言動で物議を醸してきたが、1月20日に大統領に正式に就任してからも、相変わらずで国の内外に大きな波紋を投げている。世界一の超大国であるだけに、その影響は甚大である。選挙戦の際の発言や公約と当選してからの実際の政策に隔たりがあるのは、古今東西の政治家の常だが、トランプ氏の場合、むしろ有言実行とばかりに、大統領令を頻発するなどして、実施に挑戦している。

 トランプ政権の政策については、トランプ氏の強引かつ衝動的なユニークな性格に左右されるところが多く、また発言に相矛盾することもあって、予測が非常に難しく、不透明なところが少なくないが、それでも幾つかの点が浮かび上がってきている。

 第1にアメリカ第一主義。自国の国益を第1にするのは、主権国家として当然のことだが、トランプ政権の場合、排他的とも言えるほど、露骨にアメリカの国益を前面に押し出している。具体的には軍事力の強化、貿易の保護、移民・難民の入国規制などであり、国際協調主義が後退している。

 第2に外交に対する取引的な姿勢。トランプ氏のこれまでの職業人生の体験によるのか、「取引」的なアプローチを身上としている。これはミクロ経済分野では通じるかもしれないが、マクロ経済になると二国間貿易均衡主義に陥りがちであり、外交や安全保障の分野になると、深刻な問題を起こしかねない。貿易と安全保障の取引などになると極めて危険である。

 第3に独特の政治スタイル。衝動的、攻撃的で対決をいとわない。メディアの批判に不寛容である。このような姿勢から外国、それも友好国との間にも不必要な摩擦を起こしている。これは時間とともに、また有能な部下を持てば、ある程度緩和していくことが期待される。

 トランプ大統領の言動は首尾一貫しないことが多く、外交分野でも予測不可能なところが多い。政権の外交陣営も枢要な国務、国防長官には人を得ている感じがするが、大統領府の安保担当補佐官、戦略担当補佐官には側近のいささか特異な人物が当てられ、幹部官僚の政治任命はこれからである。従ってトランプ外交の今後を占うことは難しいが、とりあえず次の三つのカテゴリーに分けられるのではないか。

 ①おおむね、公的発言通り実行されるもの②発言等が修正されるか、部分的に実行されるもの③先送りされるか、建前はともかく、従来の政策が事実上、踏襲されるもの。

 特定国からの入国規制、難民の流入規制は第1のカテゴリーに属し、すでに国内外で大きな波紋を投じている。経済外交分野でも、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の修正、二国間貿易協定の締結促進がこれに属する。

 第2のカテゴリーに属するのは枚挙にいとまがない。ロシアについては、プーチン大統領に融和的で、核軍備管理とウクライナに絡む制裁を取引しようと言うが、これは全く論外で、さすがに共和党の内部でも問題になっている。中国に対しても、米中貿易についての輸入禁止うんぬんとか、南シナ海についての発言とか、どこまで深く考えた発言なのか、これらが何らかの取引対象にされたりすると大変なことである。

 中東についても同様で、イランと西側諸国との間の核合意に手を付けたりすると一大事であるし、イスラエルへの傾斜、米国大使館のエルサレムへの移転等は大きな問題を起こしかねない。

 トランプ政権の対日政策は、幸いにしてこれまでのところ、安全保障面に関する限り、第3のカテゴリーの従来の政策の踏襲である。早々に国防長官を派遣して、日米同盟の重要性を再確認したことはその現れである。

 米国は日本にとって、かけがえのない大切な同盟国であり、トランプ政権には不安と懸念がつきまとうものの、少なくとも4年間はうまく付き合っていかなければならない。特にトランプ氏のユニークな性格、ワンマンタイプの性格からすれば、日米首脳間の関係が決め手である。この点から、トランプ氏当選早々の安倍首相の訪問、今回の日米首脳会談、親善ゴルフは個人的関係を深めるのに大いに貢献し、タイムリーであった。

 首脳会談に先立って、マティス国防長官の訪日、両国外相間のコンタクトで日米同盟の重要性、核の傘、北朝鮮問題、尖閣諸島をめぐる防衛義務、南シナ海問題などについても、米国の安全保障へのコミットメントが再確認され、それが首脳同士で裏打ちされたことは何よりの成果として、大いに評価できる。

 だが、日本として、安閑としてはいられない。トランプ大統領のアメリカ第一主義「取引」的アプローチ、二国間主義は今後の経済交渉で表面化し、防衛力の増強が持ち出されるかもしれない。日本としては、両首脳間の個人的な信頼関係を基礎に、主張すべきはしっかりと主張するとともに、トランプ大統領の最大の主張である雇用拡大、インフラの整備等には、ウィンウィンの観点から前向きに対応していくべきである。

(えんどう・てつや)