世界最大の「聖書博物館」 米首都に11月オープン
「死海文書」などを展示へ
米国の首都ワシントンに今年11月、世界最大の「聖書博物館」が誕生する。世界的発見とされる「死海文書」の断片など歴史的価値の高い聖書関連の品々が展示されるほか、聖書の物語を体感できるテーマパークのようなエリアも設けられる。聖書が米社会にいかに大きな影響を与えてきたか、その歴史をたどるフロアも見どころの一つで、米国が宗教的伝統に深く根差した国家であることを再認識できる博物館となりそうだ。(ワシントン・早川俊行)
聖書博物館は、連邦議会や中心部の緑地帯ナショナル・モールに程近い場所に建設が進んでいる。8階建てで、延べ床面積は約4万平方㍍。国立航空宇宙博物館などで知られるスミソニアン協会の博物館ではなく、民間資金で建設・運営される。
聖書博物館の設立を発案したのは、米手工芸用品チェーン「ホビー・ロビー」の社長を務めるスティーブ・グリーン氏。2009年に「ローズベリー・ロール」と呼ばれる14世紀ごろの聖書の写本を購入したのが、最初のきっかけだ。以来、4万点以上を買い集め、短期間で世界有数の聖書関連コレクターとなった。
グリーン氏のコレクションは、1947年以降に死海近くの洞窟で発見された「死海文書」のうちヘブライ語聖書(旧約聖書)創世記の写本の一部や、米国で初めて印刷された聖書、伝説的ロック歌手エルビス・プレスリーの聖書など幅広い。
グリーン氏は「聖書は史上最も多く売れ、最も多く翻訳された本であり、間違いなく歴史の最も重要な文献だ。聖書が科学、教育、民主主義、芸術、社会に影響を与えてきたことは疑いの余地がない」と、聖書をテーマにした博物館設立の意義を強調する。
聖書博物館は主に「歴史」「物語」「インパクト」の三つのフロアから成る。「歴史フロア」では、グリーン氏のコレクションを中心に歴史的価値の高い文書や工芸品が展示される。また、多くの死海文書を保有するイスラエル考古学庁のギャラリーも設けられる。
米の宗教的伝統、再認識の場に
「物語フロア」は、ノアの箱舟や紅海を割るモーゼなど聖書の有名な場面を体験できる、いわば“聖書のテーマパーク”のようなエリアになるという。建築現場を見学させてもらうと、イエス・キリストの時代を再現した「ナザレのイエスの世界」では、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)など一部が既に出来上がっていた。
「インパクトフロア」では、聖書が米国と世界に与えてきた影響を幅広く解説する。英国からメイフラワー号で移住してきたピルグリム・ファーザーズから現代まで、聖書の観点から米国の歴史をたどることのできる極めて興味深いエリアだ。
聖書博物館のジェレミー・バートン広報部長は「リンカーン大統領は2期目の就任演説で聖書を3カ所も引用した。マーティン・ルーサー・キング牧師のアイ・ハブ・ア・ドリーム演説も聖書の言葉で溢(あふ)れている。今でも大統領は聖書に手を置いて就任宣誓をするのが伝統だ。聖書は米国に多くの影響を与えてきた」と語る。
米独立の象徴である「自由の鐘」のレプリカも展示される予定。鐘には「地上全体と住む者すべてに自由を宣言せよ」という旧約聖書レビ記の一節が刻まれているからだ。
聖書博物館に対して懐疑的な見方もある。宗派によって解釈が異なる聖書を本当に中立的・客観的に展示できるのか、という疑念だ。特に、グリーン氏が敬虔(けいけん)な福音派キリスト教徒であることから、福音派の教えを強調する博物館になると疑う向きもある。
これについて、バートン氏は「われわれの使命はあらゆる国、あらゆる世代、あらゆる宗教的背景の人々を招いて聖書に触れてもらうことだ。いかなる神学的立場も取っていない。中立的で無宗派の博物館にすることは難しいことではない」と主張する。
同博物館のシャノン・ベネット地域調整部長も「この博物館は宗教ではなく聖書という本に焦点を当てた博物館だ」と強調する。
信教の自由を建国の理念とする米国だが、社会の世俗化と公の場から宗教を排除しようとするリベラル勢力の攻撃により、宗教的伝統が圧迫されている現実がある。このため、聖書博物館は来場者にとって、失われつつある米国の宗教的伝統と建国の理念を再認識する場ともなるかもしれない。