トランプ政権と米露関係
対露制裁破棄の可能性も
問題は職務遂行権限の有無に
米大統領選挙でのドナルド・トランプ共和党候補の勝利を受けて、ロシアの情報サイト「ロシア・ダイレクト」(RD)はパーベル・コシキン編集長の「トランプ大統領時代と露米関係の将来」と題する論評を9日に配信。同日、「トランプ大統領時代は米国人の対露観を変えるだろうか?」という小論を配信した。筆者はアンソニー・モレッチ米ロバート・モーリス大学情報部門準教授。
以下、コシキン編集長とモレッチ準教授の論評を紹介したい。最初に、コシキン氏の論評。
トランプ候補敗北という事前の予測や最初の出口調査にもかかわらず、多くの人びとの予測を超えて、彼は勝利した。問題は、多くの議論の余地のある内外政策を主張しながら、トランプは前進する(職務を遂行していく)政治的な権限を有するのかどうかということだ。評論家たちは次の事実を指摘する。トランプとクリントンは一般投票をほとんど半分ずつ分け合い、トランプが勝利した州の多くでも、僅差だったのだ。付言すれば、彼は議会での異論に立ち向かわねばならない。国家の統一には困難が控えている。
まず、トランプの勝利は、国内の社会的、経済的な挑戦に直面した米国民が、彼らのエスタブリッシュメントと政治的エリートおよびグローバリゼーションの概念全体に、非常に失望した事実の結果である。そして、この趨勢(すうせい)は米国のみならず、全世界でも、珍しくなくなっている。
ロシアの前財務相アレクセイ・クドリンはツイッターで、米国の大統領選挙は、グローバリゼーションのプロセスの現状が多くの人々の期待を裏切ったことを示したと書いた。さらに彼は、今回の選挙を、ヨーロッパで影響力を増してきた右翼とポピュリスト勢力による“ブレグジットの継続”と描写した。
しかしながら、最終的にトランプが勝利した事実は、いかなる最新の挑戦にもかかわらず、民主主義がその復原力を証明したことを示唆した。
「民主党は負けたが、民主主義は勝利した。変化し続けながら、米国は歩み続けるだろう。呑(の)むには苦い薬だったが、国家には必要だった」と書いたのは、カーネギー・モスクワ・センター所長のドミトリー・トレニンである。
彼はRDのインタビューに「米国では、クレムリンが外交路線を変更し、米国によって樹立された国際関係システムへの反抗をやめる以前に、対露関係が改善されると信じる者はいない。同様に、米国のエスタブリッシュメントの中では、プーチン政権の下で、内政は言うに及ばず、ロシアの外交が変わると信じている者は誰もいないのだ」と答えた。
次はモレッチ準教授の論評である。
ドナルド・トランプは米大統領選で予想外の勝利を収め、またまた評論家たちを困惑させた。彼は今や米露関係を逆転させようとしているのだろうか?
トランプは米国の政治史上、大きな逆転劇の一つを完成した。彼は17年1月20日に大統領に就任するが、トランプ新政権は米露関係に興味ある可能性をもたらすだろう。
ロシアのプーチン大統領に対するトランプの親近感はしばしば記録されており、プーチンのトランプへの感情は同じようにポジティブだ。プーチンは11月9日、トランプに最初に祝電を送った世界の指導者の一人であった。だが、善意のジェスチャーは米露関係を根本的に変えるだろうか? トランプには、考察に値する興味深い可能性がある。
14年のロシアのウクライナへの干渉に対抗してオバマ大統領が採った制裁を破棄することはその一つである。
北大西洋条約機構(NATO)組織に関連した費用をさらに負担すべきだという加盟諸国への要求は、トランプの次のオプションである。トランプ勝利確定後の数時間足らずのうちに、NATO事務局長は、平和維持に当たった米国と西欧諸国の間の長期にわたる関係を忘れないでほしいとトランプに訴えた。トランプが米軍の地域での役割を限定すれば、彼はロシアにとって有利な関係へさらなる圧力をかけることができよう。
ロシアがシリア反政府勢力への空爆を続けていることに関わらないのも、トランプがオバマと著しく違った方法でロシアに対処していることを誇示するもう一つの方法となろう。
しかし、彼が選択する実質的なオプションは、やがて前任者となるオバマの諸計画をどの程度破棄することを決断するかであろう。西欧諸国の指導者たちは、多分、他の地域の指導者たちにも増して、注意深く見守っていくことだろう。
(敬称略)
(なかざわ・たかゆき)






