米大統領選、国際情勢見据えた政策論争を


 米大統領選は5日のレーバーデー(労働者の日)を境に終盤戦に入った。世論調査では、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官がリードを保っている。超大国の大統領候補として、米国のみならず国際情勢を見据えた政策論争を期待したい。

 リベラルな民主党綱領

 批判を物ともせず、強硬な態度で過激な発言を連発してきたトランプ氏だが、ここにきて目玉政策の不法移民対策をめぐって迷走している。支持拡大を図るため、強制送還を唱える立場を修正しようとしたことが、従来の支持者から批判を浴び、発言を二転三転させている。

 一方のクリントン氏も、長官時代の私用メール使用問題や財団の献金者への便宜供与疑惑を追及されている。今後の展開によっては、一気に情勢が変わる可能性も否定できない。

 トランプ氏は外交・安全保障で、国益最優先の「米国第一」に基づく政策を進める考えだ。同盟国である日本や韓国などの米軍駐留経費の負担を増やすとしている。孤立主義的な方針には懸念を抱かざるを得ない。

 これに対し、クリントン氏は同盟重視の考えを示している。ただクリントン氏は長官時代、ロシアとの関係改善を図った「リセット(見直し)」外交を進めたが、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合などで認識の甘さを露呈する結果となった。イラク駐留米軍を撤退させたことも、結果的に過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力伸長を招いた。「力の空白」を生じさせる外交政策は世界を不安定化させよう。

 ISに関して、民主党は大規模な米軍戦闘部隊の展開を含まない軍事行動に議会承認を得ることを主張。共和党は政策綱領で、ISを「殺人的狂信主義」と呼び、地域からISを根絶するためにイラクとの協力をうたって被害者支援を強調している。また、民主党はイランと米国など6カ国との核合意を支持。共和党は敵国になり得るイランの核武装を助けるものとして合意を拒否し、「共和党大統領は束縛されない」と明言している。

 内政では、民主党が政策綱領に、クリントン氏と候補指名を争ったバーニー・サンダース上院議員の持論である最低賃金時給15㌦や金融改革を盛り込んだ。同性婚や人工妊娠中絶の問題についても支持を表明。性的少数者(LGBT)の権利拡大を前面に押し出すなど、民主党史上最もリベラルな内容と言われる。米国社会に混乱を招かないか気掛かりだ。

 一方、共和党は連邦最高裁の同性婚容認判決を非難。あらゆる場合における中絶反対を明確にしている。また性転換者をめぐって、出生時の性別でなく性転換後の性に基づいたトイレ使用を容認する努力を「非合法、危険でありプライバシー問題を無視すること」と批判している。

 米国の行くべき道示せ

 これからの本選は政策論争の段階に入っていく。両党の違いを明確にすることが求められよう。その意味では、9月から10月にかけて行われる3回の公開討論会は重要である。両候補には国内外の情勢を適切に判断した上で、米国の行くべき道を示してほしい。