キューバ、人権問題解決が不可欠だ
オバマ米大統領がキューバを訪問し、ラウル・カストロ国家評議会議長と会談した。来年1月までの任期のオバマ大統領としては、昨年に国交を回復したキューバとの関係改善を、外交上の成果として強く打ち出したい狙いがある。今回のキューバ訪問をテコに、米国の裏庭である中南米諸国と協調を進める思惑もある。
米大統領が88年ぶり訪問
米国はキューバ革命をきっかけに1961年に国交断絶してから半世紀以上対峙してきたが、2014年12月に断交政策を転換し、昨年7月には両国が54年ぶりに国交を回復した。オバマ大統領のキューバ訪問は、冷戦時代の対立から一転、両国の新たな時代の幕開けを印象付けたと言える。
現職米大統領としては88年ぶりとなる歴史的訪問となった。だが首脳会談では、経済関係のさらなる強化で一致した一方、米国が懸念するキューバの人権問題については溝が埋まることはなかった。
カストロ議長は、米側がキューバの経済制裁を緩和した点を評価しつつも、制裁の全面解除を求めた。これに対し、オバマ大統領は「人権問題などの改善次第」という考えを示した。
キューバ国営テレビで生放送された1時間近くの共同記者会見では、オバマ大統領が「人権問題の進展がない限り、火種がくすぶり続けると思う」と強調する一方、カストロ議長は「人権問題を政治問題化させることに反対する」と不満を表明し、不快さや怒りを感じている様子を見せた。
人権擁護団体は、政治的活動を理由にキューバで昨年逮捕された人の数は8600人を超えるとみており、今年は年初からの2カ月間で2500人以上と推測している。こうした人権抑圧は看過できない。オバマ大統領が人権状況の改善を促したのは当然だ。
オバマ大統領は首都ハバナの国立劇場での演説で、キューバ国民に「表現や集会、信仰の自由などの人権は普遍的なものだ」と述べた。併せて反体制派らを拘束するキューバ政府を批判し、一党独裁体制から民主主義への移行の必要性を訴えた。米国にはキューバの民主化進展に向けた取り組みが求められる。
オバマ大統領が米国と目と鼻の先にあるキューバとの断絶を解消し、新たなる関係を構築する流れが加速したことは多としたい。ただ、キューバの求める経済制裁全面解除の実現には多くの課題が山積している。
一方、米国が対キューバ断交政策を取っている間に、中国やロシアが中南米諸国への進出の動きを見せていた。こうした安全保障上の懸念が、オバマ政権がキューバとの関係強化を目指す理由の一つだ。
安保踏まえ戦略的関与を
米共和党はキューバとの関係改善に対して厳しい姿勢を崩していない。協調ムードの演出が目立った今回のキューバ訪問だが、関係強化にはキューバの人権問題解決が不可欠だ。
米国にはキューバの人権状況改善を進めつつ、中南米への影響力を強化するための戦略的関与が求められる。