米同性婚合法化、道徳的価値の相対化を憂慮


 米連邦最高裁判所が同性婚を全米で合法化する判決を下した。欧州や中南米で広がっている同性婚尊重の動き、ならびに賛成57%、反対39%といった同性婚についての世論調査結果に見られる米国民の意識の変化が影響した。だが、こうした変化は果たして健全なものだろうか。

 保守派判事4人は反対

 オバマ米大統領は「ゲイやレズビアンのカップルは今や他の人と同じように結婚する権利がある。大きな一歩だ」とツイッターに投稿し、歓迎した。しかし、2016年大統領選挙の共和党候補らは判決に批判的だ。候補の一人は「重大な誤り」と断じ、同性婚禁止を可能とする合衆国憲法の修正を目指すことも辞さないとしている。

 同性婚推進の背景にあるのは米欧社会における人間中心主義(ヒューマニズム)思想の広がりである。人間中心主義とは「人間より上位のものからの人間の解放、そして自主性を宣言し、人間を存在するすべての物の中心と見る思想」(ソルジェニーツィン)である。

 ヒューマニズム尊重の見地から個人の価値観を絶対視し、個人が望めば相手が同性であろうと婚姻が認められるようになった。世界で初めて同性婚を容認したのは2001年のオランダで、03年にベルギー、05年には同性婚に反対するカトリック教会の信者が多いスペインが続いた。南アフリカ、アルゼンチン、フランス、ニュージーランドなどのほか、今年5月にはアイルランドでも認められた。

 だが注目されるのは、今回の判決が、9人の判事のうちリベラル派5人が賛成、保守派4人が強い反対意見を述べるというギリギリの判断であったことだ。米国では4年前の世論調査では賛成と反対がほぼ同数だったが、ピューリサーチセンターの今年の調査では賛成が反対を上回った。判決に保守派判事が反対し、さらに共和党大統領候補が批判したのは、ヒューマニズムの過度の尊重に対する危機感の表れだとみてよいだろう。

 憂慮されるのは、人間中心主義が生み出す道徳的価値の相対化である。米独立宣言は「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」とうたっている。だが、神を離れて人間中心主義ともなれば独立宣言の精神は失われ、「自由」と「平等」という主張だけが残る。

 宗教性を失った社会では「自由」は法律に反しない限り何をやってもよい自由となり、何が善か悪かは個人で判断することが「平等」となる。そして万人の価値観を尊重するという「寛容さ」が重視される。だからこそ同性婚をも容認し、認めないのは許し難い社会的差別だと断じる。米国社会で凶悪犯罪や麻薬絡みの社会的退廃が広がっている背景に、道徳的価値の相対化があることは否定できない。

 国の荒廃は家庭から

 ゲイやレズビアンのカップルで果たして健全な家庭が構成できるだろうか。「修身斉家治国平天下」という。その国の荒廃は家庭から始まる。今回の判決が、米国社会をどこへ導くのか注目される。

(7月2日付社説)