サイバースパイ 次世代の繁栄を脅かす中国

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ロジャース前米下院情報委員長に聞く(下)

300 ――中国のサイバースパイ活動の深刻度は。

 極めて深刻だ。中国はサイバースパイを最も果敢に行っている国だ。中国は米国や日本、欧州諸国から知的財産を盗み、莫大な利益を得ている。問題は中国が知的財産を盗んでも、罰を受けていないことだ。だから、中国はサイバースパイをやり続けるだろう。

 名前は挙げられないが、ある米企業は中国に製品の知的財産を盗まれたことで、2万5000人分の雇用が失われた。一つの企業で2万5000人だ。このようなことが毎日、全世界で何千件と起きている。これは次世代の繁栄に対する脅威だ。

 ――中国は先端軍事技術もサイバースパイで盗んでいる。

 軍事技術が10年後れていたとしよう。その技術を開発できなくても、盗み取れば、10年分のギャップを埋めることができる。中国が配備する先端軍事技術の多くは、他国から盗んだものだ。

 ――米国家安全保障局(NSA)のトップが先月末、「重要インフラが破壊的なサイバー攻撃を受けるのは時間の問題」との見方を示した。

 中国、ロシア、イランは破壊的攻撃を行う能力を有している。イランは(サウジアラビア国営石油会社の)サウジアラムコにサイバー攻撃を仕掛け、甚大な被害を与えたことがある。北朝鮮も中国、ロシアほどのレベルではないが、米企業を攻撃した。米国がこの問題に対応する用意ができているとは思えない。

 イランは(オバマ政権が目指す)イラン核協議の合意に強く反対するラスベガスのカジノ企業にもサイバー攻撃を仕掛けた。北朝鮮を含め、これらの国々は、政治的利益があれば、米国を攻撃すると決めている。NSA局長が差し迫った脅威だと語ったのはそういう意味だ。

 ――サイバー攻撃の標的になるインフラとは。

 金融、電力、交通の拠点が主な標的だ。米国だけでなく、日本の標的を狙っている勢力がいるのは間違いない。

 ――世界における米国の影響力がオバマ政権下で急激に低下している。

 米国が関与しない世界がどうなるか知りたければ、テレビをつければいい。テレビに映し出されるのは、混乱状態の世界だ。これは米国が世界への関与を低下させた結果だ。米国が退けば、中国やロシア、イランなどがその空白を埋めることになる。これが今、南シナ海やウクライナ、中東でわれわれが目撃しているものだ。

 米国は世界から退くべきだというオバマ大統領の理念を実行に移した時、何が起きるかを示す実例が今の世界だ。米国の関与、リーダーシップを取り戻さなければならない。

 ――リベラル派は米国が超大国であることに極めて批判的だ。リベラルな世界観を持つオバマ氏は、米国の地位を意図的に低下させているのでは。

 その通りだ。オバマ氏は米国の超大国の地位を低下させるべきだと信じている。

 ――オバマ政権が掲げるアジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)政策をどう評価する。

 良くできたプレスリリースだ。レトリックが先行し、実際の行動が伴っていない。リバランスを行動に移さなければならない。

 ――アジア太平洋地域の軍事バランスをどう見る。

 米海軍は依然強力だが、アジアの戦略バランスが中国有利に傾きつつあることを憂慮している。

 これに対し、米国が昨年、フィリピンと結んだ軍事協定は極めて重要なステップだ。軍事力を通じて周辺国への影響力を拡大しようとする中国に対抗する上で、日本のリーダーシップは死活的に重要だ。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)