穏健派の大義傷つける米政権
ロジャース前米下院情報委員長に聞く(上)
今年1月まで米下院情報委員長を務めたマイク・ロジャース前下院議員(共和党)はこのほど、世界日報のインタビューに応じた。イスラム過激主義への対応や中国サイバー攻撃の脅威、オバマ米政権の外交政策などについて聞いた。(聞き手=ワシントン・早川俊行)
イスラム過激主義対策

マイク・ロジャース 1963年、米ミシガン州生まれ。陸軍、連邦捜査局(FBI)などを経て、2000年に連邦下院議員に初当選し、7期14年務めた。2011年から今年1月まで下院情報委員長。現在、ハドソン研究所特別研究員やCNNテレビのコメンテーターを務める。
――過激派組織「イスラム国」に対するオバマ政権の軍事戦略をどう見る。
米国はもっと積極的に対応しなければならない。米軍を現地の部隊に同行させ、情報や兵站(へいたん)、即応などの分野を支援すれば、より効果的になる。離れて支援する現在の戦略は、イスラム国の活動を遮断するのに効果的でない。
――派遣すべき地上部隊の規模は。
米国では(オバマ大統領が否定する)「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」が何を意味するかが議論になっている。小規模の特殊部隊の派遣もブーツ・オン・ザ・グラウンドになるのか、あるいは陸軍第八二空挺(くうてい)師団など大規模な派遣のことを指すのか。これは作戦遂行能力を害するばかげた議論だ。効果的な対応のために、米軍を前方に展開することが必要なのは明らかだ。私は第八二空挺師団を派遣することに賛成だ。
――イスラム国はソーシャルメディアを積極的に活用し、同調者を獲得している。
われわれもソーシャルメディアという同じプラットフォームで、イスラム国のプロパガンダに対抗するキャンペーンを展開する必要がある。だが、米国も世界もこの分野の対応が遅れている。
――「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型のテロをどう防ぐ。
彼らはインターネットを通じて過激化するため、防ぐのは極めて難しい。まずできることは、イスラム国が負けつつあることを示すことだ。だが、テレビをつければ、人質を殺害するニュースなどイスラム国が勝っているようにしか見えない。われわれは結束してシリアでイスラム国を打倒できることを示し、彼らの動きを鈍らせる。彼らの思想にどう打ち勝つか、長期的展望が見えてくるのはそれからだ。
――オバマ政権は先月、過激主義対策サミットを開催したが、イスラム教徒に配慮し、「イスラム過激主義」という表現を避けた。
問題をありのまま表現することができなければ、イスラム教界にこの問題への取り組みを求めることさえできない。これはイスラム穏健派勢力が過激主義を押し返すのを困難にしている。オバマ政権は(穏健派が過激主義に対抗する)大義を後押しするどころか、逆に傷つけている。
――オバマ政権はテロの温床を撲滅するため、貧困・失業対策の重要性を強調しているが、宗教的動機でテロに走る過激派を経済的対応で止めることができるのか。
欧米のジハーディスト(聖戦主義者)たちは、中間層や裕福な家庭の出身者が多い。彼らの経済状況とは関係がない。経済を改善させることは良いことだが、テロとは別問題だ。経済をテロの根本的原因と位置付けるのは誤りだ。
――テロの温床を撲滅するため、より有意義な対応は。
過激主義を押し返すイスラム教内の広範な取り組みを支援することだ。われわれはイスラム教界に対し、この取り組みに加わるよう強く求める必要がある。それによって穏健派勢力を力づけるのだ。さもなければ、穏健派はさらに孤立してしまう。
――日本は対イスラム国軍事作戦に参加していないが、2人の日本人人質が殺害され、テロの標的になった。日本国内でテロ攻撃が起きる可能性は。
すべての国がその可能性から逃れられない。日本は民主主義、自由、平等を信じているが、イスラム国はこれらを否定している。日本人が標的になったのは、日本が軍事作戦に参加しているかどうかとは関係がなく、彼らが信じることを信じていないからだ。