アメリカ次期大統領は誰か

那須 聖

在米外交評論家 那須 聖

在米外交評論家 那須 聖

筆頭株はクリントン女史

白人人口減少で共和党不利

 アメリカでは2016年11月に次期大統領選挙が行われる。

 まだ3年も先のことであるが、すでに候補者について大衆の間で議論が始まっている。周知のようにアメリカの二大政党制は全米的に根を下ろしているために、これまで無所属で立候補した人が何人かいたが、ほとんど票を集めることができず、いずれも泡沫候補に終わっている。従って、共和党か民主党のいずれかの候補に関心が集まる。

 民主党側を見ると、すでに2期大統領を務めているオバマ氏は憲法の規定によって出馬できないが、もっぱら全米的に注目を集めているのが、クリントン元大統領の夫人、ヒラリー・クリントン前国務長官である。

 彼女は08年にも立候補したが、オバマ氏に敗れた。ところが、オバマ氏は党を一本化するために、彼女を国務長官に任命した。ヒラリー・クリントン国務長官はこれまでの国務長官に見られないほど頻繁に海外に出張して、その名を国内は勿論のこと、国際的に広げることに成功している。また、彼女はイェール大学在学当時から「私は最初の女性大統領になるのだ」と言いふらしていたほど、大統領になる野心を抱いていた。

 現在のところ民主党側で彼女以外に候補になれそうな人物はいない。そこで彼女が15年末から翌16年9月にかけて開かれる民主党の全国大会で、正式に民主党の大統領候補に指名される可能性は大きい。

 一方、共和党側でニュージャージー州知事クリス・クリスティー氏が立候補の可能性を検討中である。オバマ大統領は大統領としての指導力が無いという定評を作ってしまったが、クリスティー知事は知事として顕著な業績を残しており、指導力の塊のような人間であるという印象を与えている。

 しかし、両党の特徴をみると次に掲げるようになる。

 民主党=リベラル、増税して大きな政府、外交より内政に重点、支持層は労働者、黒人、ヒスパニック、若い女性など

 共和党=コンサーバティブ、減税して小さな政府、外交(テロ撲滅も含めて)重視、支持層は実業界、白人男性、中年以上の有権者など

 ここで支持層だが、ここ10年ほどの間にアメリカの白人の人口は全人口の半分以下となったのに対して、ヒスパニック系の人口が増加してきた。従って、大統領選挙に際しては共和党は不利、民主党は有利となった。もちろん、選挙には内政、外交などの政策的な要素もあるので、現段階では結果を予測することはできない。

 しかし、筆者はアメリカ当地にあって、ヒラリー・クリントン女史の言動を注意深く見守ってきたが、「この人には指導力がある」と思わせるような言動に接したことが全く無く、むしろ、厚かましい人だという印象が強く残っている。従って、彼女が当選しても、好ましい大統領になることはできないであろう。

 しかし、アメリカの主要なマスコミは、新聞ではニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、テレビではNBC、CBS、ABCの3大テレビ局はいずれも民主党支持で、大統領選挙となると、民主党候補支持を露骨に出す。そして民主党候補に不利になることはできるだけ報道しない。

 ところで、第2次大戦以後12人の人々が大統領になったが、この中で偉大な大統領と評価されたのはレーガン氏、次いでアイゼンハワー氏であるが、この2人は自ら大統領になりたいと言って立候補したのではなく、共和党幹部から要請されて立候補し、マスコミ界のハンディキャップを克服して当選した人々である。

 一方、平凡な大統領だったと思われているのは、大統領になってからも不倫を重ねた(日本の一部では“不倫トン”と言われている)クリントン氏、カーター氏、およびオバマ現大統領で、いずれも民主党から出た人々である。その中でも、カーター氏とオバマ氏は大統領としての指導力に欠けているという定評ができてしまっている。このように見てくると、ヒラリー・クリントン女史がマスコミ界の支持を得て大統領になっても、不評を受けるであろうと推測できる。

 アメリカは現在でも超大国であって、日本はじめ、多くの国々がアメリカと安全保障条約を結んで、自国の平和と安全とをアメリカに依存しているのであるから、指導力に欠ける人が大統領になることは、これら同盟諸国にとって不安であることは間違いない。

 殊にオバマ大統領のように、内乱に毒ガスを使ったシリア政府に対して軍事攻撃に出ると公言しておきながら、議会の支持を取り付けることができないために軍事行動を差し控えていることが、イスラエルに対して深刻な不安を与えていることを見ても分かるように、アメリカの大統領に指導力があるか、ないかは、国際情勢に影響するところが大きい。

(なす・きよし)