第2期オバマ米政権のアジア戦略外交政策イニシアチブ所長 クリストファー・グリフィン氏に聞く

 オバマ米政権が2期目をスタートさせてから3カ月が経過した。国務・国防両長官など外交・安全保障チームの顔触れが変わる中、対アジア戦略に変化は見られるか。米シンクタンク「外交政策イニシアチブ」のクリストファー・グリフィン所長に聞いた。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)

対中接近より同盟重視を

400 ――ジョン・ケリー国務長官はアジア太平洋地域に戦略の重心を移す「リバランス(再均衡)」の推進に消極的な印象を受けるが。

 残念ながら、カート・キャンベル前国務次官補らリバランスに携わった中心人物たちが政権を去り、リバランスに対する政権幹部の関心は1年前に比べて低下した。ただし、アジェンダとしては実行に移している限り、依然、極めて強固だ。

 米国は最近、韓国と合同軍事演習を行い、アジア太平洋地域へのミサイル防衛(MD)システムの追加配備を発表した。また、日米両政府は防衛協力の指針(ガイドライン)を再改定するが、これは日米同盟がより現実に即したシナリオに対処する能力を高めるものだ。これらは、米国がこの地域での地位を強化するためにできることが多くあることを示している。

 ――ケリー氏は北京で、中国が北朝鮮に核を放棄させれば、米国は見返りにアジア太平洋地域のMDを縮小する用意があると示唆したとされるが。

 私の見方では、ケリー氏は北朝鮮の脅威が米国のMD配備を加速させているという事実を述べただけだと思う。MDの開発・配備は、クリントン、ブッシュ、オバマ政権の一貫した政策であり、党派を超えて広範な合意が得られている。この政策が変更されるとは思えない。

 ――日本では、北朝鮮問題をきっかけに米国が中国に接近するシナリオに懸念が出ている。

 北朝鮮の脅威に対処するには、結局、同盟国との協力が必要になる。日米韓の足並みが揃わなければ、北朝鮮問題の解決は不可能だ。日米韓が共同戦線を張ってこそ、中国との協力も可能になる。同盟国との間に不和が生じれば、北朝鮮の脅威を取り除くという最終目標は達成できない。

 ――岡崎久彦・元駐タイ大使は、オバマ政権が日本との事前協議なしに中国に接近する「第2のニクソン・ショック」の可能性を指摘している。

 仮に「オバマ・ショック」があったとしたら、米国は日本の同盟国として明らかに失格だ。

 オバマ大統領がアジアを最初に訪問した時は、中国とのパートナーシップで様々な共通課題に対処したいと考えていた。だが、実際には中国政府にその意思がなく、米国のアジア政策は引き続き同盟国との協力が中心であると気付いた。この教訓を重く受け止め、現在の路線を継続してもらいたい。

 ――オバマ政権の融和的な対中姿勢が、尖閣諸島をめぐる中国の行動をエスカレートさせる恐れはないか。

 オバマ政権の発言や行動に、中国の行動をエスカレートさせるものは見当たらない。オバマ政権は昨年以来、尖閣諸島は日本の施政下にあり、また、日本の施政下にある領域が攻撃を受ければ、米国は条約上の義務を果たすと繰り返し表明してきた。ケリー氏もこの立場を再確認しており、変化は見られない。

 尖閣諸島は「中国は隣国を脅して現状を変えられるか」という命題に対するテストケースだ。米国が日本と協力して「それはできない」という基準を打ち立てることができなければ、東南アジアやその他の地域に危険なメッセージを送ることになる。尖閣諸島の問題は、アジア太平洋地域の同盟関係と安全保障協力の枠組みが、中国を脅威ではなく安定のパートナーへと導けることを示す機会だ。

対北、負の連鎖を断ち切る

韓半島非核化は中国にも利益

 ――北朝鮮の挑発行為に対するオバマ政権の対応をどう見る?

 二つの点で評価できる。一つは、オバマ政権は北朝鮮が挑発行為を行っては我々が譲歩するというこれまでのパターンを断ち切ったことだ。もう一つは、オバマ政権はこの2カ月、韓国と一連の重要な合同軍事演習を行い、米国が同盟国に対して果たす防衛義務とその能力を示したことだ。

 残念ながら、北朝鮮問題は膠着状態に陥っており、次に何が起きるか予測できない。それでも、できる限り多くの選択肢を残すようにしているオバマ政権の対応は評価に値する。

 ――オバマ政権が北朝鮮に対し、ブッシュ前政権2期目のように圧力から対話重視に舵を切る恐れはないか。

 ケリー氏はアジア訪問中、非核化への決断という最も重要な前提条件を明示せずに北朝鮮との交渉に応じる姿勢を示した。だが、これはケリー氏の失言であり、米国の政策ではないと確認されている。北朝鮮に非核化を話し合う意思がなければ、協議に応じることはできない。

 ――北朝鮮は既に核兵器を保有している。非核化は現実的な目標なのか。北朝鮮を核保有国と認め、封じ込めに軸足を移すべきとの主張もあるが。

 それは二つの問題点がある。第一に、北朝鮮を核保有国と認め、非核化を断念することは、イランなど核保有を目指す国々に危険なメッセージを送ることになる。

 第二に、封じ込めはうまくいかない。我々は既に北朝鮮に対してある程度封じ込めを行っている。だが、北朝鮮は韓国に繰り返し攻撃を仕掛け、核・ミサイル関連物資を他国に移転し、無数の北朝鮮国民が犠牲になっている。封じ込めによって問題を最小限に抑えようとしても、核なき安定した韓半島という最終目標には至らない。

 ――北朝鮮のレジーム・チェンジ(体制転換)を目標に据えるべきか。

 体制転換にしても封じ込めにしても、すべきことはあまり変わらない。いずれにせよ、北朝鮮の金融ネットワークを制限し、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)などを通じて核・ミサイルの拡散を阻止し、中国に圧力を掛けて支援をやめさせる必要がある。レトリックよりも用いるツールが重要だ。我々はどのツールが有効かを知っており、これを用いるべきだ。

 一方、忘れてはならないのが人権問題だ。中国には数万人の北朝鮮難民がいるが、中国は彼らを難民と認めず、北朝鮮に送還している。これは明らかな国際法違反だ。専門家だけでなく、日米韓は政府レベルで中国の行動に対処する必要がある。

 北朝鮮の政治体制の下で、信じられないほど多くの罪なき人々が死んでいる。これは悲劇だ。我々はこの状況が変わるように支援しなければならない。

 ――北朝鮮核問題で中国の協力を引き出すことは可能か。

 中国が協力することは中国自身の利益だ。韓国の世論調査によると、国民の3分の2が自国の核開発を支持している。中国は韓国や日本が核を保有することを望んでいない。

 中国が北朝鮮にコミットするのは、北朝鮮が米国や日韓に対する緩衝国であるからだ。だが、北朝鮮は中国が望む安定した緩衝国ではなく、中国の利益を損なう恐れのある行動を繰り返している。この地域が制御不能の不安定な状態に陥る前に、核問題を解決することは中国自身の利益だ。

 ――日米同盟強化に取り組む安倍政権の動きをどう見る?

 日本が平和憲法に合う形で集団的自衛権を行使できるようにすることは、米国にとって極めて重要だ。多くの米国人はおそらく、日本は同盟国が攻撃を受けたら助けると思っており、これができないと知ったら驚くだろう。集団的自衛権の問題が解決され、日米両政府がより健全で強固な同盟関係を築くことを期待している。