中露の天然ガス契約、戦略関係に発展せず ゴンパート前米国家情報副長官に聞く

日本の集団的自衛権行使を支持

 【ワシントン早川俊行】オバマ米政権1期目に国家情報筆頭副長官を務めたデービッド・ゴンパート氏は、世界日報のインタビューに応じ、天然ガスの大型売買契約で接近する中国とロシアについて、「中露のパートナーシップは見掛けほどではない」と述べ、拡大する国力の格差や相互不信感などから、戦略的関係には発展しないとの見通しを示した。また、安倍政権が目指す憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認を支持し、日本が国力に見合った安全保障上の責任を負うことを拒むなら、「フリーライダー(ただ乗り)」と見なされると警告した。一問一答は次の通り。

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デービッド・ゴンパート 1970年代にキッシンジャー米国務長官の特別補佐官、90年代にブッシュ大統領(父)の特別補佐官、国家安全保障会議(NSC)欧州・ユーラシア担当上級部長。有力シンクタンク、ランド研究所などを経て、2009年にオバマ政権の国家情報筆頭副長官に就任。10年には長官代行として情報機関を統括した。現在、ランド研究所非常勤上級研究員などを務める。

 ――30年間で4000億㌦(約40兆円)の天然ガス売買契約に象徴される中露の新たな協力関係をどう見る。

 中露の新たなパートナーシップは、ガス契約以外にどの程度実体があるのか、はっきりしない。ガス契約自体も一方的なものだ。ロシアは欧州に代わるガス消費国をどうしても必要としていた。中国はこれを利用し、価格面で極めて有利な条件を引き出した。

 とはいえ、中国との長期契約を確保したことは、ロシアにとって有益だ。中国にはロシア以外に、中東、さらには北米の液化天然ガス(LNG)など、長期契約の選択肢があったからだ。

 一方、中国がロシアとガス契約を結んだのは、戦略的理由というより経済的理由からだ。中国は自分たちの要求が満たされなければ、席を立つつもりだったという事実からも、このことは明らかだ。

 ロシアはウクライナや欧州に対して行ったガス供給量の操作を中国に対して行おうとはしないだろう。従って、ロシアが中国に対して何らかの政治的影響力を得たとは思えない。むしろ、欧州でガス供給国としての信頼を失ったロシアは中国を必要としており、今回の契約がもたらしたのは、ロシアに対する中国のより大きな政治的影響力だ。

 ――中露接近が及ぼす地政学的影響は。今回のプーチン・ロシア大統領訪中を、冷戦時代のパワーバランスを大きく変えた1972年のニクソン米大統領訪中になぞらえる分析も目立つ。

 中露のパートナーシップは見掛けほどではない。ガスの取引関係自体は戦略的協力を意味するものではない。ロシアと欧州は長年、ガスの取引関係にあるが、両者の間に戦略的協力はほとんど見られない。米国とベネズエラも同様で、石油の取引関係は双方の政策にほとんど影響を与えていない。

 ロシアにとって中国は戦略的に有益な存在になり得ないと言っているわけではない。中国が米国やその同盟国に対して軍事的圧力を掛けることはロシアに有益かもしれない。だが、中国はロシアのガスのためではなく、あくまで自国の利益を最優先して行動するだろう。もし中国が米国と衝突するリスクを冒すことがあれば、それはロシアを助けるためではない。

 (1970年代の)米中接近との類似は表層的なものだ。そもそも中国は40年前、ソ連から離れて米国に接近し、より強力な超大国と手を組んだのだ。今日、米国はあらゆる力の指標において、ロシアよりはるかに重要な国だ。米露の力の差はさらに拡大している。ロシア経済は長期的な景気後退局面に入っており、人口も高齢化と減少が進んでいる。これに対し、米国はエネルギー生産が急増している。

 中国が衰退している国との関係のために、世界最強国との関係を犠牲にすることは戦略的に理にかなわない。

日本は「安保ただ乗り」脱却を

米シェール革命、露・イランに打撃

 ――中露間には根強い不信感がある。

 ロシアは中国を嫌い、中国はロシアを嫌っている。単純明白だ。中露間に大きな信頼が存在したことはない。共産主義思想を共有し、共通の敵がいた時でさえそうだ。中国指導部がプーチン氏を信用できる人物と見ているかどうか疑わしい。

 さらに、拡大する両国の経済力、技術力、政治力の格差が緊張を生み出すことは避けられない。ロシアは中国に対し、より強大なパートナーとして接することに慣れていない。ロシアが中国より弱い国という立場で振る舞わなかった場合、中国はどう反応するだろうか。

 ――ロシアとのガス契約は、中国にとって中東へのエネルギー依存度低下につながる。

 中国がイランへのエネルギー依存度を低下させることは、我々にとって好ましいことだ。イランが核兵器保有の道を選んだ時、イランを孤立化させ、制裁を科すことが容易になる。中国は一つのエネルギー供給国に過度の影響力を持たせないように供給関係の多様化を進めるだろう。

 ――米国は「シェール革命」によって世界最大のエネルギー産出国になる見通しだ。米国にとってエネルギー輸出は今後、有利な地政学的バランスをつくりだすツールとなりうるか。

 米国が欧州または中国の巨大な需要に見合うLNGを輸出できるようになるにはまだ何年も先のことだ。また、米国が主要輸出国になったとしても、どこに、どのような条件で、いくらで売るかは、市場に決めさせることになるだろう。それでも、米国が天然ガスと原油の輸出国になるという事実は、ロシアやイランなどが政治目的で供給関係を利用するのを困難にするだろう。

 欧州は今後10年でかなりの量の米国産ガスを輸入する可能性が高い。これはロシアが欧州の政策を操る能力を低下させるだろう。

 ――沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中の対立をどう見る。

 日本が尖閣諸島問題の平和的解決を主張していることは正しい。日本は同諸島の施政権を有し、米国は中国が武力を行使した場合、日米安全保障条約が適用されると明示している。

 同様に、米国は日本に対し、中国が挑発的とみなす一方的な行動は慎んでほしいと思っているはずだ。従って、日本が中国の武力行使に対抗する能力を向上させる場合、慎重に立案し、米国と共同で計画する必要がある。

 ――安倍政権は憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認を目指している。

 日本は普通の平和国家であり、成熟かつ安定した民主主義社会だ。また、日本は全般的に紛争の平和的解決や国際安全保障に尽力している。他国はこれを日本の真の姿として受け入れるべきであると同時に、日本もその地位にふさわしい安全保障上の責任を受け入れるべきだ。

 さもなければ、日本は国際平和維持のための負担や犠牲はすべて米国などに負わせる「フリーライダー(ただ乗り)」と見なされるだろう。米国人は他の裕福な大国が国際安全保障に十分な貢献をしていないことにだんだん敏感になってきている。

 従って、日本がようやく集団的自衛に貢献する責任を受け入れたことは、これ以上ない重要なタイミングだ。この方針は日本の防衛能力を向上させるとともに、米国などと共同で攻撃に対処することを可能にする。そのような能力・行動は日米同盟の範囲内である限り、他国も受け入れるはずだ。

(注)ゴンパート氏の見解は個人的なものであり、同氏が所属する組織を代表するものではない。