決選投票近づくコロンビア大統領候補

対ゲリラ和平派と強硬派が接戦

 南米コロンビアで15日、大統領選挙の決選投票が行われる。半世紀続いた内戦の和平交渉が続く中での大統領選挙は、和平交渉推進派の現職と対ゲリラ強硬派の候補との間で接戦となっている。(サンパウロ・綾村 悟)

国民の目は経済・教育にシフトも

800

コロンビア大統領選を前にテレビ討論に臨むサントス大統領(右)と野党候補スルアガ氏=22日、ボゴタ(AFP=時事)

 南米コロンビアでは、政府と二大左派武装ゲリラの間で半世紀にわたって内戦が続き、これまでに60万人とも言われる犠牲者を出している。特に中南米最大の左派ゲリラとして知られるコロンビア革命軍(FARC)は、最盛期の1990年代には、1万5000人以上の武装構成員を擁し、麻薬密売関与などで得た膨大な資金源を背景にコロンビア政府軍を圧倒していた。同組織はその後、前政権の対ゲリラ強硬政策により衰退を余儀なくされたが、現在も武装構成員8000人でゲリラ活動を続けている。

 そのコロンビアで先月25日、現職サントス大統領の任期満了に伴う大統領選挙が実施された。総勢5人が乱立した選挙では、いずれもが過半数を獲得できず、現職で再選を狙うフアン・マヌエル・サントス大統領(62)とオスカル・スルアガ元財務相(55)の上位二人による決選投票が行われることが決まった。

 得票率は、スルアガ元財務相の29・3%に対して、サントス大統領は25・7%。決選投票に進む2候補の票差は3・6ポイントと小さく、落選した3人の候補の取り込みと浮動票の動きが決選投票の鍵を握るものとみられている。

 決選投票に進む両候補の政策を比べてみると、経済政策は両候補共に投資家寄りの自由主義経済を尊重する姿勢を保っており、有権者の意向を左右するほどの大きな違いは見受けられない。

 左派武装ゲリラとの和平交渉に対する姿勢では、サントス大統領とスルアガ元財務相の間に大きな違いがあり、この選挙に内外の注目が集まる理由となっている。

 現職のサントス大統領は、対ゲリラ強硬派だったウリベ前大統領の元で国防相を務めた経歴を持つ。ただし、2010年の大統領就任後には、外交関係が断絶していた反米左派の故チャベス大統領のベネズエラとの関係を回復させた。

 それだけでなく、2012年には、コロンビア革命軍との和平交渉を本格的に開始させた。和平交渉は時間がかかりながらも着実に進んでおり、和平実現に向けた期待は国内外から高まっている。

 対するスルアガ候補は、ゲリラ強硬派のウリベ前大統領が推してきた候補でもある。和平交渉の継続に反対するウリベ前大統領は、和平交渉を続けるサントス政権への批判のトーンを強めており、和平交渉以前に、ゲリラ側は即刻武装放棄をして組織を解体すべきだと強く主張している。

 スルアガ氏は、知名度こそサントス大統領にはかなわないが、コロンビアの治安を大きく改善させて近年の経済発展の礎を築いたとも言えるウリベ前大統領の後ろ盾を強調し、左翼ゲリラとの和平交渉の進展に潜在的な不満を持つ層に強くアピールしたことが、現職大統領を上回る票の獲得につながった。

 スルアガ氏は「ゲリラは信用ならない」と一貫して主張を続けているだけでなく、「ゲリラ幹部には最低でも6年の懲役を科すべきだ」などと厳しい対応を求めている。

 ただし、世論調査では有権者の多くが和平交渉の継続を求めているとの数字も出ており、決選投票が近づくにつれて、スルアガ氏の和平交渉に対するトーンは柔らかくなってきており、現在は、一定の条件を付与した上で和平交渉の継続を支持している。

 最初の投票で、スルアガ氏の後塵(こうじん)を拝したサントス大統領は、「(決選投票は)内戦を終わらせるか、それとも終わりのない内戦を続けるかの選択になる」と有権者に選択を迫る強いメッセージを送った。

 和平交渉自体は、大統領選挙中の現在も継続されており、キューバのハバナでは、今月3日からコロンビア政府とゲリラ側の代表団による話し合いが行われている。

 決選投票を迎えて揺れ動く和平交渉だが、ゲリラ強硬派のスルアガ候補が当選した場合にも、世論を無視できない次期政権は、和平交渉を継続させることになろう。

 ただし、スルアガ氏が左派ゲリラに対してより厳しい条件を求めることは十分に考えられるため、ゲリラ側がそれを受け入れられるかどうかは未知数だ。特に問題となるのは、ゲリラ司令官に対する条件だ。スルアガ氏は、ゲリラ幹部が政治に関与することを禁止すべきだと強調、懲役刑を科すことを強く求めている。ゲリラ側は和平交渉を通じて一切の罪に問われることを拒否している。

 最近の世論調査の結果から、国民の関心は、内戦継続の有無よりも経済成長と教育の充実などに向いているとの指摘もなされている。