W杯開幕直前のブラジル、反政府デモ継続の懸念
秋の大統領選に影響も
半世紀ぶりのサッカー・ワールドカップ(W杯)自国開催を控えたブラジルだが、近年の経済成長や中産階級の台頭とともに、社会や国民が抱えてきた多くの矛盾や不満は、W杯という世紀のイベントを通じて、10月予定のブラジル大統領選挙にも影響を与えかねない勢いで噴出している。
(サンパウロ・綾村 悟)
抑え込めばルセフ氏優位に
W杯開催を来週に控えたブラジルだが、大会準備は、スタジアムの不備やインフラ整備の遅れ、終わりのない反政府デモに治安問題など、大会開催までに解決が望めない多くの問題を抱えたままだ。
特に深刻なのが、大会中も継続される可能性が極めて高い反政府デモだろう。昨年5月、サンパウロの公共バスの値上げに端を発したデモは急速に規模を拡大、昨年6月に開催されたW杯の前哨祭とされるコンフェデレーションズカップでは、全国規模の反政府デモへと姿を変えた。
デモ参加者らは、数千億円規模でブラジル全土に投資されたスタジアム建設やインフラ整備のための投資が、当初予想の規模をはるかに超えて運用されていることを批判、「投資を教育や医療、公共インフラ整備などに向けるべきだ」「政治腐敗の一掃をすべきだ」などと批判した。ブラジルでのW杯準備をめぐっては、スタジアム建設やインフラ整備に投入された資金をめぐる汚職も指摘されている。
反政府デモは、コンフェデ杯終了後も続き、一時はブラジル全土の100カ都市以上で数百万人が参加する事態へと発展、ルセフ大統領がテレビを通じて、社会保障整備や腐敗根絶を約束する緊急メッセージを発することになった。
その後、反政府デモは、ブラジル政府とデモ主催者らの話し合いなどを通じて一定の沈静化はしたものの、反政府デモは現在も継続して続いているのが現状だ。
こうした中、ブラジルのルセフ大統領は、6月2日、首都ブラジリアにおいて、ブラジルW杯の優勝カップを公開するイベントに国際サッカー連盟(FIFA)のプラッター会長らと共に参加、「大会準備は整っている」と強調した。ルセフ大統領は、大会期間中のデモ抑制に関しても強い決意を示しており、「W杯のスムーズな開催に水を差すデモは許されない」と大会期間中の反政府デモに厳しい姿勢で挑むことも示唆している。
ただし、2日のイベントで公開された優勝カップに関しては、5月末に一般公開向けのイベントが開催される予定だったが、首都ブラジリアで発生した反政府デモの影響でイベント自体が中止に追い込まれている。
ブラジルW杯は、10月に実施されるブラジル大統領選挙にも大きな影響を与えかねない。
最新の世論調査では、ルセフ大統領の支持率は40%台を回復、野党候補に支持率で大きく差をつけている。現時点では、決選投票でもルセフ大統領の当選が予想されているが、それはあくまでもW杯が順当に終了した場合の話だ。反政府デモを一定水準に抑え、ブラジル代表が優勝した場合には、ルセフ政権にとってこれ以上ないシナリオとなる。
一方、W杯の開催期間中のデモが予想以上の拡大から混乱につながり、かつ、ブラジル代表の成績が芳しくなく終わった場合には、批判や不満の矛先が現政権に向き、大統領選挙に影響が出ることも十分に考えられる。実際、現時点でも野党候補らの支持率は、ルセフ大統領を上回るスピードで上昇しており、世論が政権への批判に大きく傾いた場合には、野党候補にとって有利になることは必至だ。
ルセフ大統領は、最近行われたサンパウロでのW杯関連のイベントの際に、「(ブラジルで起こっていることは)民主主義というシステムが支払う必要があるコストにすぎない」と強調した。
一方、先月行われた世論調査では、実に4割近くが「W杯の開催に反対する」と答えており、「サッカー王国」ブラジルでのW杯開催が、どのような結果に終わるか、世界の注目が集まる世紀のイベントが始まろうとしている。