黒人票の行方 「呪縛」から脱却なるか
「民主党は黒人に精神的プランテーションから出て行ってほしくないのだ」。米共和党が先月開催した全国大会で登壇した黒人議員から、痛烈な民主党批判が飛び出した。
こう主張したのは、ジョージア州下院議員のバーノン・ジョーンズ氏。民主党に所属しながら、大統領選ではトランプ大統領を熱烈に支持する異色の人物だ。
ジョーンズ氏の言う「精神的プランテーション」とは何か。民主党は長年、黒人有権者を忠実な支持基盤としてきたが、奴隷制時代の大規模農園のように、黒人を思想的奴隷として囲い込んできた、という意味である。
民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領は5月、ラジオ番組のインタビューで、トランプ氏を支持する黒人は「黒人ではない」と口走った。民主党のプランテーションから脱走することは許さない、と言わんばかりの暴言だった。
黒人が米人口に占める割合は13%にすぎないにもかかわらず、オバマ氏が2度も大統領に選出されたことは、米国が人種差別を完全ではないにせよ、大きく克服したことを示す明確な証拠だ。だが、オバマ氏が所属する民主党の政治指導者の口から出てくるのは、米国を人種差別国家と断罪する言葉ばかりだ。副大統領候補に指名された黒人のカマラ・ハリス上院議員も、先月の民主党大会で「人種差別にワクチンは存在しない」と断じた。
民主党が盛んに人種差別批判を繰り広げるのは、差別を解消することよりも、国家への反感や被害者意識を植え付けることでマイノリティー有権者を囲い込むことに主眼がある。こうした民主党の政治戦略に組み込まれた黒人有権者は、過去半世紀にわたり、9割前後が大統領選で民主党候補に投票してきた。
黒人は民主党の岩盤支持層との認識が定着し、最近の共和党大統領候補は黒人票を奪うのは無理だと最初から諦めていた。だが、トランプ氏は黒人票の獲得を再選戦略の重要な柱に位置付け、これまでの常識を打破しようと挑戦している。
新型コロナウイルスの感染拡大により、過去最低の黒人失業率をもたらしたトランプ氏の経済実績は吹き飛んだ。さらに、白人警官による黒人暴行死事件に端を発する抗議デモへの対応でも激しい非難を浴び、トランプ氏の戦略は崩れたかのように見えた。だが、共和党大会では、若手ホープのダニエル・キャメロン・ケンタッキー州司法長官ら黒人を次々に登壇させ、黒人票重視に変わりがないことを鮮明にしている。
今回の大統領選でも、黒人の大多数はバイデン氏に投票することは間違いない。だが、トランプ氏に黒人票の過半数は必要なく、15~20%を獲(と)るだけで再選が大きく近づく。決して現実離れした目標ではない。
前回大統領選でトランプ氏がペンシルベニア州などを僅差で勝利できたのは、投票を棄権した黒人有権者が多くいたことが一因と言われている。ラスムセン社が同州で先月行った世論調査では、トランプ氏の支持率が46%でバイデン氏に並んだが、注目すべきは黒人の27%がトランプ氏を支持したことだ。
これに対し、バイデン陣営は、ハリス氏を中心に黒人有権者の引き留めに動いている。民主党が躍起になってトランプ氏を「人種差別主義者」とレッテル貼りをするのは、同氏が黒人を民主党の「呪縛」から解き放とうとしていることへの警戒からだ。
(編集委員・早川俊行)





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