郵便投票 民主主義の根幹揺るがす
11月の大統領選に向け、新型コロナの感染防止のため、多くの州が郵便投票用紙の有権者への配布や不在者投票の要件緩和などに動いている。その結果、郵便投票が急増し、過去最高となる見込みだ。
米紙ワシントン・ポストによると、全米50州と首都ワシントンのうち、19州とワシントンで有権者のすべてに投票用紙か申請用紙が送付され、25州では不在者投票として郵便投票が容易に利用できることになった。病気や出張など厳格な条件が求められるのは残りの6州のみとなった。
前回大統領選で郵便投票は約3300万人で、全体の約4分の1を占めた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、今回の大統領選では、それが5000万~7000万人に達する可能性があるという。
前例のない規模の郵便投票によって予想されるのは、結果判明の遅れと無効票の増加だ。
6月に行われたニューヨーク州下院選の予備選では、郵便投票が約40万票と以前の10倍に増えたため、混乱が起きた。署名の照合など確認作業に時間がかかるため、一部選挙区では結果が確定するのに8月までかかったほか、到着の遅れや消印、署名がなかったことによって約5分の1の票が無効になったという。
郵便投票による無効票の増加は、民主党にとっては大きな懸念材料だ。
USAトゥデー紙などの世論調査によると、郵便投票か不在者投票をする可能性が高いのは、民主党支持者が47%だったのに対し、共和党支持者は21%と2倍以上の開きがあった。また、ジョージア州の18年中間選挙を対象にした調査によると、民主党の支持基盤である若年層や有色人種の郵便投票の方が無効になりやすいことが明らかになっている。
無効票を減らすため、民主党側は郵便投票の規則緩和に動いている。
例えば、ジョージア州では従来のルールでは投票日以降に到着した郵便投票は廃棄されていたが、民主党系団体からの訴えを受け、同州の連邦地裁は消印があれば投票日の3日後までに到着すれば有効とする仮命令を下した。ペンシルベニア州においては、消印がなくても11月6日までに到着した投票用紙は集計されるよう求める訴訟を民主党が起こしている。
こうした動きは集計作業のさらなる遅れや混乱を招く可能性がある。
懸念されるのは、郵便投票により選挙当日の「勝者」が、最終的に敗者となる可能性があることだ。例えば、開票日の深夜にトランプ大統領が勝利宣言をした後、郵便投票の開票作業が進むにつれて民主党候補のバイデン氏の方に形勢が逆転するような場合だ。
かねて郵便投票への不信感を示し、選挙結果を受け入れない可能性まで示唆しているトランプ氏が不正があったと主張し、ホワイトハウスに居座り続けるというシナリオもあり得ない話ではない。そうなれば民主主義制度そのものへの信頼を揺るがすことにもなりかねない。
こうした事態も予想されることについて、WSJ紙は「裁判所が次期大統領を選ぶのか?」と題した社説を8日に掲載。最高裁判所の判決によって最終的に決着がついた2000年のブッシュ氏対ゴア氏の争いを上回る混乱を回避するため、郵便投票の締め切りを厳格にするなどし、「国民の半分が選挙結果を不当だと主張するリスクを減らす」べきだと強調した。
(ワシントン・山崎洋介)










