米の拠出金停止、WHOの中国偏重を是正せよ


 米国のトランプ大統領は、世界的に感染拡大した新型コロナウイルスへの世界保健機関(WHO)の対応を検証するとともに、その間の拠出金を停止すると発表した。発生地の中国で隠蔽(いんぺい)により初動が遅れた一方、WHOの中国寄りの運営に批判があり、最大の感染者と犠牲者が出ている米国が不信感を行動に表したことは理解できる。

トランプ氏がWHO批判

 新型コロナ感染は全世界で約200万人に広がり、米国は感染者61万人以上、死者2万6000人以上になっている。中国では昨年12月初めに湖北省武漢市で入院した患者の新型肺炎が確認され、今年1月23日に武漢封鎖、3月10日に武漢入りした習近平国家主席による収束宣言となったが、WHOは同11日になって世界的流行(パンデミック)を宣言した。

 米国が国家非常事態宣言を発令したのは同13日のことだ。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、中国から新型コロナについて「正確な情報が得られなかった。最初から不正確な情報が拡散されていた」と、中国の情報開示の問題を指摘している。

 中国では、習氏の一声で「戦時下」として武漢を封鎖する急展開となったが、それ以前は人から人への感染の「証拠はないが疑われる」、あるいは「限定的」などの曖昧な情報しかなく、わが国でも専門家が「国内感染のリスクはない」「特別な対策を取る必要はない」など、今日のパンデミックに照らせば見当違いの認識を示していた。

 トランプ氏は、WHOが早期に中国に専門家を派遣して正確な情報を分析し、情報開示の欠如を指摘していれば感染者も犠牲者も少なくて済んだと批判したが、もっともな訴えだ。WHOからは中国への評価や配慮が示されただけだった。

 一方、台湾は昨年12月31日に新型肺炎について武漢で患者が隔離治療を受けているとWHOに注意を呼び掛けた電文を送ったことを明らかにした。武漢の李文亮医師が、重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た感染症としてインターネット交流サイト(SNS)で告発したのも同日だが、昨年12月の段階で人から人に感染することへの危機感が中国や台湾の医療関係者に広がり、WHOにも伝えられていたことは重要な指摘だ。

 が、WHOは人から人への感染は限定的で持続的感染は確認されていないとして1月23日に緊急事態宣言を見送り、同25日のリスク評価でも「世界的には低い」とするなど、武漢での発生確認から2カ月目でも対応はまったく鈍いものだった。

 このような判断に「一つの中国」原則を主張する中国に偏重した姿勢はなかったか。人間の健康に人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件による差別はないとする保健機関でありながら、WHOは台湾をオブザーバーからも排除してきた。

 公正さ期待できぬ懸念も

 初動対応に重要な台湾の通知よりも中国の政治的意向が優先された可能性があり、もはや公正な国際機関としての役割を期待できないとの懸念もある。米国の検証を機にWHOは自ら是正を図るべきである。