世帯現金給付、必要な人に行き渡るのか


 政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、事業規模で総額108・2兆円の緊急経済対策を決めた。目玉は所得が急減した世帯への現金30万円給付だが、住民税非課税世帯の収入を基準にしたため制度が分かりにくく、また支給対象が限られ、必要な人に行き渡らない恐れがある。手間や時間もかかる。

 これではせっかくの大型対策も効果を十分に発揮できない。国民一人一律10万円など単純な制度に変更し、裏付けとなる補正予算成立後に速やかに支給できるようにすべきである。

複雑で分かりにくい制度

 安倍晋三首相は緊急経済対策について「経済に与える甚大な影響を踏まえ、過去にない強大な規模となる対策を実施する」と述べ、その意義を強調した。事業規模を国内総生産(GDP)の2割相当と過去最大とした決意はいい。現金給付も2008年のリーマン・ショック後の一人1万2000円(18歳以下と65歳以上は2万円)と比べても大幅に増やした。

 ただ、今回の現金給付には問題が少なくない。制度の問題である。要件として政府は、2~6月のいずれかの月収が以前と比べて①年収換算で住民税の非課税水準まで減少②収入が50%以上減り、年収換算で非課税水準の2倍以下――を示したが、非課税水準が自治体によって異なることもあり、複雑で分かりにくいことだ。自己申告制のため、必要書類を市区町村に提出する必要もある。

 総務省は複雑さ緩和のため、世帯主の月収に関して統一基準を設定し、単身世帯であれば10万円以下、扶養家族が1人であれば15万円以下などとしたが、それでも分かりにくく、申告する方もそれを受ける行政側も手間と時間がかかる。

 政府は約1300万世帯への支給を想定しているが、今回の給付は世帯主の収入しか対象にしていないため、共働き家庭で妻の収入がなくなった場合などを考慮していない。配偶者の収入が激減し、生計の維持が困難になっても支援を得られないという制度上の不備が指摘されており、「必要なところに効果的に」(麻生太郎財務相)給付されない恐れがあるのである。

 感染収束の兆しが見えず、緊急事態宣言もあり、イベントの自粛に加え、店舗や事業所の休業、外出の手控えなどで経済的に困窮する個人や家計への支援は待ったなしである。分かりにくく手間と時間がかかるなど問題の多い制度を早急に見直し、国民一人一律10万円支給といったスピード感のある仕組みに変更すべきである。高所得者には年末調整時に相殺すればいい。

 売り上げが急減した中堅・中小企業へ最大200万円、フリーランスなど個人事業主へは最大100万円の現金給付も申告制で手間暇がかかり、金額も十分ではないだろう。

果断にさらなる対応を

 今回の対策では、税金や社会保険料の支払い猶予に26兆円程度、企業の資金繰り支援などに45兆円などで事業規模が膨らみ、財政支出も39・5兆円程度と大きくなったが、感染の状況によってはさらなる対策も予想される。第2次補正編成など果断に対応すべきである。