北最高人民会議、変わらぬ軍事重視に警戒を


 北朝鮮で国会に相当する最高人民会議が平壌の万寿台議事堂で開かれ、新型コロナウイルスの感染拡大への対応が重要議題として討議された一方、軍事重視を鮮明にさせた。

 金正恩朝鮮労働党委員長はいかなる状況下でも軍事力増強を体制維持の柱に据えることが改めて浮き彫りになった。警戒を緩めてはならない。

 貢献した軍幹部ら昇進

 最高人民会議の前日に正恩氏が出席して開かれた党政治局会議では、最初の議題が新型コロナの問題だった。

 国営メディアによると「ウイルス感染の脅威が短期間に解消されるのは不可能」だとし、「われわれの闘争と前進にも一定の障害になり得る」との認識が示された。

 最高人民会議は理由が明かされないまま予定より2日遅れの開催となったが、正恩氏は出席しなかったとみられ、出席した代議員の数も例年に比べ少なかったとの指摘も上がっている。

 北朝鮮当局の発表では国内感染者はいまだゼロということだが、会議で示された危機意識や出席者の様子は実際にはさまざまな分野で影響が出始めていることをうかがわせるものだ。

 こうした非常事態にもかかわらず、最高人民会議に先立ち国営メディアは正恩氏が軍の迫撃砲部隊による砲撃訓練を視察したと報じた。砲弾60発が全て標的に命中し、正恩氏は満足の意を表した上で、砲兵の戦闘準備にさらに拍車を掛けるよう促したという。

 すでに世界中で新型コロナが蔓延(まんえん)していた先月、北朝鮮は4回にもわたり「戦術武器」などと称して短距離弾道ミサイルを日本海に向け相次ぎ発射した。パンデミック(世界的大流行)で国際社会が混乱する中、一貫して軍事力増強に突き進んだ。

 最高人民会議では人事が発表され、各種弾道ミサイル発射など節目となる武力挑発に関わってきた軍幹部が最高機関である国務委員会の委員に昇進した。政治局会議では強硬派軍人出身である李善権外相が正恩氏の妹、与正氏と共に政治局員候補という要職に選出された。

 昨年末の党中央委員会総会でも核・ミサイル開発を主導してきた党幹部が昇進したことを考えれば、北朝鮮が米国との非核化交渉が行き詰まって以降、軍事力増強に貢献する軍幹部を重用していることが分かる。

 新型コロナ蔓延が収束するよう世界が結束を強めなければならない時、周辺国の安全保障を脅かす北朝鮮の行為は断じて許されない。

 日本としては北朝鮮の一貫した軍事力増強に抑止力の強化で臨む必要がある。現在、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備をめぐり、秋田県内の陸上自衛隊演習場が候補地に挙がっている。地元への説明を含め周到に準備を進め、迅速に配備すべきだ。

 コロナに目奪われるな

 国際社会は北朝鮮による武力挑発を糾弾し、抑止力を強化すべきだが、新型コロナの感染拡大ばかりに目が奪われ、北朝鮮への警戒心が緩んでしまっていないか。

 いま一度、北朝鮮の軍事重視に注意を払う必要がある。