プーチン氏の支持率が急落
ロシア世論調査 年金改革、増税に反発/欧米と関係改善望む国民
年金支給年齢の引き上げや付加価値税率のアップなどに対する国民の反発が広がり、プーチン大統領の支持率は急落した。もっとも、プーチン大統領に代わる選択肢があるわけではなく、抗議運動は広がりを欠いている。興味深いのは、欧米との関係改善を志向する国民が増えていることだ。欧米との対立を煽(あお)ることで求心力を高めてきたプーチン政権の手法が、通用しなくなってきたのだ。
(モスクワ支局)
サッカーワールドカップ・ロシア大会のどさくさに紛れるようにプーチン政権が行った、主な改革は以下となる。
下院で基本採択された年金支給年齢の引き上げ(男性は60歳が65歳、女性は55歳が63歳)、下院で最終採択された付加価値税18%から20%へのアップ(ロシアの下院は、第1読会で法案を基本採択し、その後第2読会での修正採択を経て、第3読会で最終採択を行う)、その他、アパート共益費、自動車登録税、国外用パスポートの取得費などが引き上げられる。
ロシア政府にはカネが必要なのだ。主要な収入源である原油などの輸出価格が下落している上に、二つの戦争(ウクライナ東部紛争とシリア空爆)、併合したクリミアの維持、ガスパイプラインの建設などに多額の支出を余儀なくされている。これを増税で補わざるを得なくなったのだ。
ロシアの女性の平均寿命77歳に対し、男性は66歳。政府予想では12年後に、女性は83・7歳、男性は75・8歳まで伸びる。
とはいえ、年金支給開始年齢の引き上げは国民の生活に大きな打撃となる。特に最も打撃を受けるのが、プーチン大統領のコアな支持基盤である低所得者層だ。
国民の反発は、大統領支持率に明確に表れた。
世論調査基金が7月末に行った調査では、プーチン大統領の支持率は47%に低下した。プーチン大統領は3月の大統領選で得票率76%を記録しており、クリミア併合以降、大統領の支持率が60%を割ることはなかった。
一方、全ロシア世論調査基金の7月の調査では、大統領を信頼するとの回答は、3月の53%に対し、過去最低に近い水準である37・6%まで下落した。大統領を信頼するとの回答は、クリミア併合直後に86%に達していただけに、その下落幅が目立つ。
年金改革や増税に対し、共産党や、リベラル派野党勢力が抗議デモを全国各地で展開したが、広がりを欠いているとの印象だ。
多くのロシア人にとって、1991年のソ連崩壊とその後の混乱の記憶は脳裏に焼き付いており、政権をひっくり返すような大規模な抗議運動には心理的なブレーキがかかる。プーチン大統領に代わる選択肢が事実上ないことも、抗議運動が広がらない要因だ。
ただ、だからといってプーチン政権が安泰かといえば、そうとも言い切れないようだ。
原油価格の下落による景気の悪化に加え、クリミア併合を受けた対露経済制裁により国民生活が悪化する中でも、プーチン政権は、国民の不満の矛先が欧米に向くように画策し、求心力を保ってきた。
しかし、世論調査基金「レバダ・センター」の最近の調査によると、54%の人々が欧米の関係正常化を望むと回答した。米国との対立を支持したのは18%。また、旧ソ連近隣諸国への領土拡大を支持したのは14%だった。
米国は追加の対露制裁に動いている。にもかかわらず、ロシア人の対米感情は改善している。今年3月の調査では、米国に悪い感情を抱いているとの回答が69%に対し、良い感情を抱いているのは20%だった。しかし、7月の調査では、それぞれ42%、40%となった。
また、56%が、近隣諸国に力を誇示するのが強国ではなく、国民に豊かな生活を保障するのが強国だと回答した。強国とは、プーチン大統領が好んで使うフレーズだ。
これらの回答から分かることは、多くの国民が欧米や国際社会との対立に疲れ、“普通の”生活を欲しているということだ。そして、経済制裁の標的は一般国民ではなく、クリミア併合を主導した政治エリートなどであることを、理解しだした結果と言えるだろう。