ロシア大統領選、プーチン氏再選にイスラエルが協力
ユダヤ系インテリ層が支援へ
対ヒズボラでロシアの了承
イスラエルのネタニヤフ首相は1月29日、モスクワでプーチン大統領と会談し、ナチスとの戦いで赤軍が果たした役割を高く評価した。ネタニヤフ首相の言動は、ロシアのユダヤ系インテリ層を、プーチン再選支持でまとめるのに大きな役割を果たしている。一方でイスラエルは、シリア内戦終結後のヒズボラとの戦いで、ロシアの了承を得た形だ。
(モスクワ支局)
ネタニヤフ首相のロシア訪問は12回目。ロシアが伝統的な友好国であるシリアのアサド政権を支援し、イスラム国(IS)を事実上壊滅して以降、ネタニヤフ首相のロシア訪問は頻度を増している。今回の首脳会談は、プーチン大統領の肝煎りで建設されたモスクワのユダヤ博物館・寛容性センターで行われた。
両首脳は、国際ホロコースト記念日と、第2次大戦でのドイツ軍によるレニングラード包囲からの完全解放(双方とも1月27日)に関連した式典に参加。ネタニヤフ首相は、イスラエル国民とロシア国民がナチスとの戦いで払った多くの犠牲に言及し、その勝利に貢献した赤軍(ソ連軍)の勇気を称(たた)えた。
プーチン大統領が再選を目指す3月18日の大統領選を控えたこの時期に、ネタニヤフ首相がロシアを訪問し、イスラエルとロシアの“特別な関係”をアピールしたことは大きな意味を持つ。
米国はロシアへの制裁強化を盛り込んだ国内法に基づき、プーチン政権とつながりの深い政治家や資本家のリストを発表し新たな制裁をちらつかせるなど、プーチン再選阻止に動いている。しかしイスラエルは米国とは一線を画し、プーチン大統領の再選を支持している――ロシア国民の目にはこのように映った。
プーチン再選への側面支援はこれだけではない。世界ユダヤ人会議のローダー議長は「ロシアはユダヤ人が生活するのに最も安全な国の一つだ」と発言。さらに、ロシアのユダヤ系の重鎮エフゲニー・ヤーシン元経済相が代表を務めるリベラル・ミッション基金のセミナーで2月1日、エミール・パニン上級経済学校教授は次のように述べた。
「プーチン大統領の再選を懸念するには当たらない。プーチン政権下でロシアの反ユダヤ主義は急速に鎮静化し、90年代に顕著だった民族迫害は過去のものとなった」
これらの動きを、野党系ラジオ局「モスクワのこだま」は次のように分析している。「(プーチン批判で知られ、選管から大統領選への立候補を拒否された著名ブロガー)アレクセイ・ナワリヌイ氏による大統領選ボイコットの呼び掛けを、ユダヤ系が多いロシアのリベラル派インテリ層は支持しない。プーチン大統領やその取り巻きと、ユダヤ系リベラル派インテリ層の中心メンバーとの間で、何らかの取引があった」
数カ月前まで、リベラル派インテリ層はプーチン批判を繰り返していた。今でも一部でその流れは残っているが、潮目は明らかに変わっており、プーチン政権とリベラル派インテリ層が手を握った感がある。
ネタニヤフ首相がプーチン大統領に恩を売った形に見えるが、イスラエルもロシアから、その代償を得ているようだ。
ロシアやイランと共にシリア内戦でアサド政権を支援したヒズボラは、イスラエルと対立関係にある。急進的シーア派イスラム主義組織であるヒズボラはイランから支援を受けており、イスラエルとの衝突を繰り返してきた。シリア内戦を通じイランやロシアなどから武器の供与を受け、本格的な軍事組織としての実力を高めており、イスラエルは警戒を強めている。
今回のプーチン大統領との会談でネタニヤフ首相は「シリアとレバノンにおけるイランのプレゼンス拡大を容認することはできず、行動する必要がある場合には行動する」と述べ、事実上、ロシアの了承を取り付けた形となった。