プーチン政権、国民の愛国心高揚を利用

露のクリミア併合から3年

 ロシアのプーチン大統領がウクライナのクリミア半島の併合を宣言してから、18日で3年が過ぎた。欧米などによる対露経済制裁は国民生活に影響を及ぼしているが、国民の大多数がクリミア併合を支持している。プーチン政権は次期大統領選の投票日を、クリミア併合4周年となる2018年3月18日に決めるなど、再選に向け愛国心の高揚を最大限に利用する構えだ。(モスクワ支局)

経済制裁下でも増える肯定派
次期大統領選を4周年記念日に

 全ロシア世論調査センターが、2日と3日に行った調査によると、回答者の97%が「クリミアはロシアの一部である」と回答した。今から3年前、ロシア連邦への編入の是非を問うクリミア住民投票の結果が公表される直前に行った同じ調査では、「クリミアはロシアの一部」との回答は89%だった。

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2016年3月16日、ウクライナ南部クリミア半島の中心都市シンフェロポリで、ロシアへの編入につながった住民投票から2年を祝う人々(AFP=時事)

 「クリミア併合はロシアに利益をもたらした」と考える回答者は78%で、「利益をもたらしていない」との回答者は13%にとどまった。また、回答者の89%は「クリミア併合は、クリミアの住人にとって良い効果を与えた」としている。

 また、欧米による対露経済制裁を念頭に、「現在の対ウクライナ政策を継続することによる経済的損失を甘受する準備があるか」との質問には、59%が「準備がある」と回答した。15年に行った同じ調査と比べ、7ポイント増加した。

 プーチン大統領は「ロシアのただ一つのイデオロギーは、愛国主義でなければならない」と語っている。クリミア併合の正当化でロシア人の愛国心を鼓舞する一方で、国民の不満を外国に向けさせるよう働き掛けてきた。また、市民の間では「富や財産」を否定的に捉え、“等しく貧しかった”ソ連時代へのノスタルジーを語る雰囲気さえも形成されつつある。これらが、世論調査の結果として表れたとみられる。

 18年に予定されている次期大統領選で再選を目指すプーチン大統領は、この「愛国心の高揚」を追い風にする構えだ。ロシアの選挙法に従えば、大統領選の投票日は3月の第2日曜日なのだが、ロシア政府は18年大統領選の投票日を3月の第3日曜日と決定した。この日は3月18日であり、クリミア併合宣言4周年記念日である。

 ところで、この「愛国心の高揚」に、水を差すかのような動きがある。制裁の対象となった大統領に近い富豪や大企業経営者らに対し、その損失の一部を国家予算で補填(ほてん)しようという動きだ。

 米国は14年以降、プーチン大統領の側近や、大統領に近い富豪・大企業経営者らに対して制裁を科し、彼らが米国内に持つ資産を凍結し米国への渡航も禁止した。

 ロシア下院では14年、彼らが制裁で受けた損失を国家予算で補填する法案が提出されたが、批判の声が上がり審議は棚上げとなった。経済制裁の影響を受けているのは庶民も同様である。特に、外貨建て住宅ローンを抱えた人々は、ルーブル暴落により返済額が膨れ上がり、住み慣れた家を手放さざるを得ない状況に追い込まれた。

 それが今月13日になって、制裁対象者への所得税課税を一部免除するという法案が突然下院に提出され、17日に基本採択されたのだ。

 プーチン大統領は法案提出に関与していないのでは、との見方がある一方で、制裁対象となった富豪や大企業経営者を救済することで、彼らからの求心力を高めることが狙い、との見方も強い。

 米トランプ政権の発足により米露関係が改善し、対露経済制裁の緩和につながると期待を寄せていたプーチン政権は、その当てが外れたことで戦略の見直しを余儀なくされた。 さまざまなプロパガンダ、愛国的スローガンで愛国心の高揚を図っているものの、1年後の大統領選までそれを維持できるかは不透明だ。スローガンだけでなく、国民のフトコロを温める政策も必要となる。富豪や大企業経営者を取り込むことで、必要な時には彼らにカネを出させる意図があるのでは、との見方も出ている。