プーチン露大統領の年次教書、トランプ次期米政権に期待感

 プーチン大統領は1日、連邦議会議員をクレムリン大宮殿に集め年次教書演説を行った。1時間余りの演説の内容は具体性に乏しいものだった。トランプ次期米政権への移行に伴い米露関係の改善を期待しているものの、現段階では明確な方針を出すことができないことが、その理由とみられる。(モスクワ支局)

関係修復・改善に意欲
北方領土問題進展は困難か

 第13回となる今回の年次教書演説は、そのほとんどが内政と経済についてのテーマに割かれ、外交・国際関係については演説の終盤でわずかに触れただけだった。演説内容の趣旨は、次のようなものだった。

プーチン

恒例の内外記者会見に臨むプーチン大統領=23日、モスクワ(AFP=時事)

 ロシアはこの数年、外国からの圧力に直面している。ロシアによる侵略や、他国の選挙に干渉したという言い掛かり、ロシアのスポーツマンへの中傷や迫害などだ。また、ロシアは地政学的な危機、諸外国からの制裁や経済の低迷、国際的な孤立などに直面している。しかしそれはすでに過去のものである。ロシアは現在、これらの過去からの移行期に位置しているが、その移行期はすでに終わりに近づいている――。

 また、年次教書からは、ロシアの内政に関するテーマ、すなわち政権人事や体制、プーチン大統領の4期目に向けた選挙プログラムなどについては、少なくとも2017年の春までは動きはないだろう、ということを読み取ることができる。

 年次教書演説に続く大きな会見として、プーチン大統領は23日に、国内外の記者を招いた恒例の内外記者会見を行った。この記者会見の内容は、年次教書演説よりもさらに乏しく、専門家らが「プーチン大統領は事なかれ主義に陥ったのでは」と戸惑いを見せるほどだった。

 発言の多くが、地方の行政や住民生活に関する非常にローカルな問題に割かれ、シリア問題やトルコとの関係など、記者らが知りたい問題に詳しく触れることはなかった。トランプ次期米政権について「建設的な関係を築きたい」と述べたものの、踏み込んだ発言はなかった。

 プーチン大統領が、ロシアの今後の国家・外交戦略に触れなかったのは、トランプ次期米政権の出方を見極めるためだとする分析が一般的だ。また、年次教書演説の内容――ロシアは国際的な孤立に直面しているものの、このような過去から移行する時期にあり、その移行期もすでに終わりに近づいている――とは、トランプ次期米政権の発足により米露関係が劇的に改善することへの、プーチン政権の大きな期待を示すものとみることができる。

 プーチン大統領はトランプ氏に対し、15日付で書簡を送り、この中で、ウクライナやシリアの情勢をめぐって対立が深まっている米露関係について「建設的かつ現実的なやり方で協力の枠組みの修復に取り組むことができるよう希望している」として、その修復・改善に意欲を示した。

 もっとも、米露関係の改善は、日本にとって直接的には、良いことばかりではないだろう。山口県長門市で15日に行われた安倍晋三首相とプーチン大統領との首脳会談では、北方四島での共同経済活動を行う「特別な制度の交渉」を開始することで合意した。しかし、プーチン氏は共同経済活動の意義を強調したものの、4島の帰属問題との関係には言及しなかった。

 ロシアにとって日本は、米国が主導する対露経済制裁に参加する一員であり、これが、日露平和条約締結の一つの障害であると、プーチン大統領は述べている。もっとも、米露関係が改善し、対露経済制裁の枠組みそのものに大きな変化が生じれば、プーチン大統領が述べたような平和条約締結に向けた日露間の障害の一つがなくなることになる。

 国際的なエネルギー価格の下落や、対露経済制裁などでロシア経済は大幅に落ち込み、2016年のロシアの経済成長はマイナス0・8%と予想されている。経済が低迷する中で、プーチン政権はその責任を、経済制裁を行う欧米になすり付けるプロパガンダを行っている。ロシアの国益の守護者として振る舞い、高い人気を誇るプーチン大統領にとって、領土問題での譲歩は自らのイメージを傷つけることになる。

 米露関係が改善し、日本との経済協力を拡大せずともロシア経済をてこ入れすることができるならば、領土問題で何らかの譲歩を伴う可能性がある日露関係の改善を急がなくてもよいことになる。

 もっとも、ロシアの思惑通りに、米露関係が改善されるかどうかは不明な点もある。トランプ次期大統領はツイッターで「世界が核に関して思慮分別をわきまえるまで、米国は核能力を大幅に強化・拡大する必要がある」と述べた。これは、プーチン大統領が、ミサイル防衛(MD)システムを強化するだけでなく、「将来のMDにも対抗できるような戦略核戦力を強化しなければいけない」と語ったことを受けたのものとみられている。