防衛費を国際水準まで上げよ
岐阜女子大特別客員教授 矢野義昭氏に聞く
尖閣諸島をめぐる日本と中国の攻防のシナリオはどうなるか。
大きくは中国の台湾侵攻作戦が発動されて、それに連携して尖閣に来る場合と、尖閣だけを目標に単独で来る場合がある。
連携して来る場合は尖閣で止まらない、石垣、宮古、与那国の先島諸島は、必ず取りに来る。ここを取らないと、台湾の東側に回り込めない。台湾の防衛態勢はみな西、すなわち中国大陸を向いている。だからその背後は弱い。台湾を一挙に制圧しようと思えば、米軍支援のための後方連絡線を断ち切って包囲しなければならず、どうしても東側海域に出ていかないといけない。この場合、拠点として北側の先島諸島をどうしても取らないといけない。尖閣は一緒に取るか、あるいは無視するかもしれないが、いずれにしても、このケースでは本格的な日中戦争が勃発する。
尖閣に単独で来る場合はどうか。
いきなり軍が侵攻してくることはない。正当性を国際的に訴えられるような形で、米軍の直接介入を誘発しない形で来る。
例えば、嵐に乗じて漁民が避難し、尖閣に上陸する。実はそれはただの漁民ではなく、武装漁民、すなわち海上民兵だ。その漁民の保護を口実に、いわゆる公船、準軍隊の人民武装警察の指揮下にある海警局が来る。これに対して、当然主権侵害だから、日本側は海上保安庁が向かうが、公船が抵抗し、あるいは上陸した武装漁民が抵抗した場合は、海上保安庁には対抗手段がない。
もし海保が撤退したら、事実上、中国の実効支配を認めたことになる。そうすると日米安保第5条の対象である日本の施政下にないから、米国が軍事介入する条約上の義務はなくなってしまう。米国側は尖閣にコミットすると表明しているが、あくまでも日本の「施政下」にある場合という意味だ、「主権下」とは一言も言っていない。ということは、日本自身が、尖閣が日本の施政下にあることを、すなわち警察権、軍事権も含めた司法、行政、立法の三権が及んでいることを実力で示さないといけない。
中国の侵攻を未然に防ぐ要件は何か。
一番大事なのは、軍事的プレゼンスを示すことだ。海上自衛隊が行って海域を封鎖し、一兵も上陸させない。あるいは、陸上自衛隊の警備隊を配置して武力で守り抜く。日本にそういう体制が出来上がっていなければダメだ。
中国が海軍を出してきて先に封鎖線を張った場合、海上自衛隊が行ってそれを突破したら戦争になる。すると、今の規定では、首相が武力攻撃事態または存立危機事態かどうかを認定するために、まず閣議で対処基本方針の決定を取り、その上で、緊急時は閣議で決定できるが、原則として国会の事前承認がいる。それでもたもたして2、3日経(た)っている間に、中国は支配態勢を完全に固めてしまう。私はそういうシナリオが一番可能性があると思っている。
それをやらせないために法整備が必要だったのが領域警備法だ。海上自衛隊と陸上自衛隊に領域警備の権限があれば、平時に緊急事態が発生しても自衛隊は直ちに行動できる。今の法制の枠の中では海上保安庁が行けても、海上自衛隊は展開できない。
防衛大綱では、島嶼(とうしょ)防衛に大きくシフトしている。
努力していることは認めるが、本当に南西防衛の態勢がつくられるかは疑問だ。航空では、沖縄の戦闘機をF15に替えて2個飛行隊にしたり、ステルス戦闘機F35を展開したり、早期警戒管制機AWACSを増やしたり、レーダーやミサイル防衛システムも配備している。陸上も、与那国に沿岸監視部隊、先島諸島・奄美諸島に警備部隊を展開。島嶼奪還作戦を担う水陸機動団を新編する。戦略空輸ができる16式機動戦闘車を配備できる態勢も取る。しかし、これでも日本が沖縄防衛を米軍の肩代わりをするだけの戦力や兵力になるとは思わない。
安倍首相とトランプ次期大統領の日米関係に期待することは。
安倍首相には、最後の機会だと思って、憲法改正と日本を守れる防衛体制の確立に取り組んでもらいたい。防衛費は対GDP比率を国際平均の2・0~2・5%にまで上げるべきだ。
トランプ氏が推進するオフセット戦略に日本も否(いや)応なく協力せざるを得ないし、むしろ日本自身が自力で脅威に対応できる態勢をつくり上げ、より深化した日米同盟を構築しなければならない。
(聞き手=政治部・小松勝彦)
(終わり)






