NATOへ苛立ち強まるロシア

ポーランドでの軍事演習にジョージア、ウクライナを招待

 北大西洋条約機構(NATO)による「包囲網」に、ロシアが反発を強めている。NATOは旧ソ連諸国のエストニアやグルジアに続き、ポーランドでも大規模な軍事演習を行った。NATOは7月にポーランドで行う首脳会議で、東欧諸国の抑止力強化のため大幅な兵力拡大を討議する予定であり、ロシアの反発はさらに強まるものとみられている。
(モスクワ支局)

欧州部国境付近への部隊配備強化の声も

 ポーランドで6日に始まったNATOの軍事演習「アナコンダ2016」は、1989年の民主化以降、同国で行われた最大の演習となった。ポーランド軍1万2000人、米軍1万4000人を含む、24カ国から3万人以上の兵力を集め、航空機105機、軍艦12隻を投入した。

800

ルーマニアのデベゼルに米国が建設したミサイル防衛システムの基地=5月12日(EPA=時事)

 NATOはほぼ同時期に、旧ソ連のバルト三国でも大規模な軍事演習を行っている。同演習にはNATO加盟国の部隊に加え、フィンランドとスウェーデンの部隊が合流した。

 演習は陸海空で展開し、夜間も続けられる。想定されるほぼすべての侵攻シナリオに対応するものだ。NATOは演習について、防衛のための戦略と戦術を確認するものとしているが、ロシアの専門家らは次のように疑問を投げ掛けている。「演習には戦車や駆逐艦だけでなく、例えば1999年のコソボ空爆に投入された米爆撃機が加わっているのはなぜだ」。

 さらに、一部の兵器は演習後も東欧に残され、後に、ポーランド内の基地に配備されることも、ロシアの警戒を強めている。これについてNATO側は「ポーランド政府の要請に基づくものだ」と説明している。

 ウクライナ危機後、ロシアとポーランドの関係は大幅に悪化した。長くロシアと旧ソ連の支配下・影響下に置かれ、ロシアへの警戒感が極めて高いポーランドは、ロシアによるクリミア併合に激しく反発。ウクライナのNATO加盟を強く後押しし、ウクライナの民主改革派を積極的に支援している。

 ポーランドのマツァレヴィチ国防相は12日、演習司令部を訪れ、次のようにロシアへの警戒感を露(あら)わにした。「演習は、ロシアによるウクライナ侵略時のような破壊工作や複合的脅威に対抗するものだ。ロシアによるウクライナ侵略は、東欧における最大の挑戦である」。

 ホッジス米欧州軍司令官も「ポーランドにおける演習により、米国やその他の地域から米軍部隊を欧州に展開する能力を高めることができた」と、演習を評価した。

 さらにポーランド政府は同演習に、クリミアをロシアに奪われたウクライナとともに、2008年の南オセチア紛争でロシアと軍事衝突したジョージアを招待した。

 これらの対応が、ロシアの反発を招いたことは容易に想像できる。ロシアの著名な軍事評論家であり、月刊誌「国防」の編集長であるイーゴリ・コロトチェンコ氏は、次のように演習の目的を分析した。

 「これらの演習の課題と目的は、ロシアに対する現実的な軍事シナリオを検証することにある。ロシアと国境を接する多くの国々に加え、中立的なフィンランド、スウェーデンが参加した演習が念頭に置くシナリオは、(ロシアの)バルト艦隊を包囲・殲滅し、(ロシアの飛び地)カリーニングラードを占領することである」

 また、コロトチェンコ氏は、ポーランドで行われるNATO首脳会議の目的について、ロシア国境付近での兵力増強と軍事施設の強化を公式に確認するものと解説した上で、次のように付け加えた。「バルト三国やポーランドで新たに建設され、もしくは強化される基地はロシアへの現実的な脅威であり、われわれはこれに対抗しなければならない」

 旧ユーゴスラビア・モンテネグロが2015年、NATOの新規加盟を承認され、NATO東方拡大に対するロシアの警戒はさらに強まった。一方で、南オセチア紛争、ロシアのクリミア併合とウクライナ東部紛争を受け、東欧諸国はロシアへの恐怖と反発を拡大させ、NATOを引き込む形での抑止力強化に動いた。

 東欧でのNATOの軍事演習に対するロシア政府の認識は、以前よりも厳しさを増している。「ロシアを予測不可能な侵略者に仕立て上げ、国防費の増額を引き出そうとするのは欧米の軍人たちの常套(じょうとう)手段」と余裕を見せていたロシア国防省のコナシェンコフ報道官も、「ロシアは東欧で行われている演習を、懸念の目で見つめている」とトーンを変化させた。

 ロシア政府内では、東欧での演習に対抗し、ロシアも大規模な演習を行うだけでなく、ロシア欧州部国境付近への部隊配備を強化すべきとの意見が強まっている。