ロシア、シリアへの攻撃を黙認 イスラエル軍は攻撃続行
シリアのメディアによると、シリアの首都ダマスカス近郊の複数箇所で10月30日、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラなど親イラン武装組織の武器輸送部隊や武器庫を標的としたイスラエル軍によるとみられるミサイル攻撃があった。一方のイスラエル軍は、外国メディアの報道についてはノーコメントとしている。シリア内戦に軍事介入するロシア軍の動きは見られていない。(エルサレム・森田貴裕)
露イスラエル首脳が会談
強い絆の継続を確認
英国に拠点を置く「シリア人権監視団(SOHR)」によれば、イスラエル軍によるとみられるミサイル攻撃で、イランが支援する民兵組織の戦闘員少なくとも5人が死亡した。国営シリア・アラブ通信(SANA)は、ミサイルの一部が着弾し、シリア軍兵士2人が負傷したと報じた。ロシアはシリア領内での親イラン武装組織を標的としたイスラエル軍の攻撃を黙認している。
ロシア南部のソチでは10月22日、ロシアのプーチン大統領とイスラエルのベネット首相が初めて会談し、シリア情勢やイランの核開発問題について話し合った。プーチン氏は、イスラエルのネタニヤフ前政権との緊密な関係に言及し、「前政権の下で築かれたイスラエルとロシアの強い絆を継続することを期待している」と語った。ベネット氏は、「ロシアは中東地域で非常に重要なプレーヤーであり、イスラエルにとっては隣国と同じだ」と語った。
ベネット氏はSNS上で、シリアにおけるロシアの大規模な軍事的プレゼンスについて、「ロシアとの関係は戦略的だが、ほぼ毎日、直接で親密な話し合いを維持する必要がある」と述べた。通訳兼顧問として随行したエルキン住宅相によれば、シリア領空でイスラエル軍とロシア軍が偶発的衝突を避けるための連絡調整を引き続き行うことで合意したという。
イスラエルのメディアによると、プーチン氏はシリア領内でのイスラエル軍の行動の自由に同意したが、イスラエル側に攻撃の事前通達を求めたという。
ネタニヤフ前政権では、ホットラインを開設し、ロシアとイスラエル両首脳間の緊密な交渉や軍当局間の連絡調整を行い、シリア領空でのイスラエル軍とロシア軍の偶発的な衝突を回避してきた。
元駐ロシア・イスラエル大使でイスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所(INSS)」のマゲン上級研究員は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「イランがイスラエルとの衝突に備え、軍事インフラを構築し、ヒズボラの武装を強化させているため、イスラエルはこれに対抗する行動に出ている」と述べた。イスラエルは、シリア領内の親イラン武装勢力を標的として独占的に行動している。シリアは、イスラエルの攻撃に対するロシアの黙認を認めているという。
中東に関する外交政策研究所の上級研究員であり、テルアビブ大学のモシェ・ダヤン中東アフリカ研究センターのクラスナ博士は、メディアラインで、「シリア政権の状況は一般的に改善されているが、シリア領内の親イラン武装組織の存在がシリアを不安定にしている」と指摘する。イスラエルは、シリア領内の親イラン武装組織を排除することに積極的だ。しかし、ロシアは、短期的または中期的に見てもシリア領内から親イラン武装勢力を排除する実際の方法がないことをイスラエル以上によく知っているという。アサド政権の存続に深く組み込まれているイランとその代理武装勢力が排除されれば、政権の崩壊につながる可能性があるという。
イスラエル軍と国家危機管理局は31日、レバノンのヒズボラとの本格的な戦争をシミュレートした大規模な訓練を開始した。今年5月のガザとの交戦で、予想以上の数のロケット弾がイスラエルに向けて発射され、同時にイスラエル国内でアラブ人による暴動が発生したことを教訓として、1週間の訓練を行う。
ヒズボラが保有するミサイルやロケット弾は10万発以上とされ、イスラエルは今後も、イランの高性能ミサイルなどがヒズボラに移送されるのを阻止するため攻撃を続けるとみられる。