ロシアで進むナワリヌイ派潰し

 ロシアのプーチン大統領は4日、裁判所が過激派と指定した団体の関係者が、国政・地方の全ての選挙に立候補することを一定期間禁止する法案に署名し、成立させた。その上で9日、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏率いる「汚職との戦い基金」など3団体を過激派に指定し、ナワリヌイ陣営の活動を封じ込めた形だ。それだけではない。モスクワ地下鉄など公営企業で、ナワリヌイ氏を支持するデモに参加した従業員を解雇する動きが始まっているのだ。(モスクワ支局)

始まったデモ参加者の解雇
「過激派」立候補禁止法が成立

 ナワリヌイ氏は4日、獄中で45歳の誕生日を迎えた。当局による数々の妨害や、毒殺未遂を乗り越えてきた同氏に、世界の20以上のNGOでつくる「人権と民主主義のためのジュネーブ・サミット」は8日、「勇気賞」を授与した。「プーチン政権による重大な人権侵害に警鐘を鳴らした並外れた勇気と英雄的な努力」が授賞の理由だ。

ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏=2月2日、モスクワ(AFP時事)

ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏=2月2日、モスクワ(AFP時事)

 そのナワリヌイ氏と支持者に対し、プーチン政権は執拗(しつよう)に圧力をかけ続けている。モスクワ市裁判所は9日、検察当局の訴えを認め、プーチン政権の不正を調査する「汚職との戦い基金」や、選挙運動やデモなどを主導する「ナワリヌイ本部」など、ナワリヌイ氏が率いる3団体を過激派に指定した。

 ナワリヌイ本部などはすでに「過激派」認定は不可避と判断し、自主解散している。このため、関係者が直ちに刑事罰に問われるわけではないが、3団体が何らかの活動を行ったと判断されれば、それは現実のものとなる。デモなどに参加した人々も同様だ。

 一方で、4日に成立・施行された、過激派組織関係者の選挙立候補を一定期間禁止する法は、法律不遡及(そきゅう)の原則に反し、施行前にさかのぼって適用することを可能としている。このため、ナワリヌイ陣営関係者の立候補は事実上不可能となった。

 法案提出当初は、下院選への立候補禁止を規定していたが、審理の途中で、地方を含む全ての選挙が対象となった。9月の下院選だけでなくそれ以外の各種選挙でも、ナワリヌイ陣営は活動を封じ込められた形だ。ただ、陣営にとっては大きな痛手だが、多くの支持者にとっては、被選挙権を剥奪されたとしても影響は少ないだろう。皆が立候補するわけではない。

 ナワリヌイ陣営を徹底して封じ込めるためプーチン政権は、その支持者にも、政権に歯向かうことの恐ろしさを分からせる必要があると判断したようだ。リーダーは投獄し、幹部らには刑事訴追を含む圧力をかけ、そして支持者には、生活の糧を奪われるという恐怖を与える構えだ。

 ロシアの独立系メディア「ドーシチ(雨)」などによると、モスクワ地下鉄やモスクワ交通管理センターなど、モスクワ交通局に所属する公営企業の従業員数十人が5月以降、ナワリヌイ氏を支持する集会に参加したことを理由に経営側から圧力をかけられ、解雇、もしくは退職に追い込まれた。

 これに関連し、ラトビアを拠点とするロシア語メディア「メドゥーザ」は、ロシア大統領府の関係者が4月中旬、ナワリヌイ氏釈放運動への参加を呼び掛けるサイト「ナワリヌイ氏に自由を」のデータベースをハッキングし、登録した人々の氏名、メールアドレス、電話番号、勤務先などの情報を流出させたと報じた。

 モスクワの公営企業でナワリヌイ支持者の解雇が始まったのは、このハッキング事件の後だ。ドーシチによると、上司に呼び出されたナワリヌイ支持者の男性は、2カ月分の給与を支給する条件で自ら退職するよう促された。拒否した場合は、職務上のミスなどを徹底的に調べ上げ懲戒解雇すると脅され、退職を選んだ。

 ナワリヌイ陣営以外の野党・反政権勢力にも、政権の圧力は及んでいる。ナワリヌイ氏を支持した野党「交代」のドミトリー・グドコフ元下院議員が6日、ロシアを脱出し、ウクライナ入りしたことを明らかにした。もしロシアを離れなければ、でっち上げの容疑で逮捕されていたと語る。また、政権に批判的な元石油王ホドルコフスキー氏が設立した財団「オープン・ロシア」のピボバロフ事務局長が5月31日、サンクトペテルブルクの空港で拘束され、その後逮捕・起訴された。