露極東で大規模な反プーチンデモ
ロシア極東ハバロフスク地方で1カ月以上にわたり、セルゲイ・フルガル前知事の逮捕に抗議する地域住民が大規模な反プーチンデモを続けている。これまでの反プーチンデモは主にリベラル派野党が主導するもので、クレムリンは治安機関を動員し制圧してきた。今回のデモはこれまでとは構図が違い、クレムリンは対応に苦慮している。
(モスクワ支局)
ハバロフスク前知事逮捕に反発
これまでと違う抗議に当局苦慮
2018年まで極東管区大統領全権代表府が置かれ、ロシア極東の中心だったハバロフスク市。アムール川を望む高台に、緑豊かな落ち着いた街並みが広がっている。ここで7月11日以降、連日のようにデモが繰り広げられており、週末になると参加者は3万人に達することもある。同市の人口は約61万人であり、地域住民の関心の大きさがうかがわれる。
デモ参加者の要求は、殺人容疑などで治安当局に逮捕されモスクワに身柄を移送されたフルガル氏をハバロフスクに戻すこと、そして、もしフルガル氏が何らかの犯罪を犯しているならば、モスクワではなくハバロフスクで公正な裁判を受けさせることである。
フルガル氏はロシア自由民主党に属する。18年の知事選で与党「統一ロシア」の現職候補との決選投票で圧勝した。ロシアでは数少ない、与党以外から選出された知事だった。ロシア自由民主党は「東京に原爆を落とせ」などの過激な発言で知られるウラジーミル・ジリノフスキー党首が率い、極右政党に位置付けられる。しかし、同党の本当の役割は、与党「統一ロシア」がカバーできない有権者層の受け皿となる“準与党”である。ジリノフスキー氏はクレムリンに忠実であり、彼の“口撃”の矛先は外国や、リベラル派野党に向けられている。
そのロシア自由民主党から出馬したフルガル氏は、“分をわきまえず”に「統一ロシア」現職候補に挑み勝利し、知事就任後もクレムリンの意に沿わない行動を続けていた。逮捕の容疑となった実業家殺人は04年と05年のものであり、なぜ今になっての逮捕なのか、疑問の声も上がった。
もっとも、ハバロフスク住民が守ろうとしているのは、フルガル氏という個人ではない。同氏が清廉潔白だと信じているわけでもない。彼らが憤っているのは「クレムリン(連邦政府)の横暴」に対してだ。「意に沿わないから」として「自らが選んだ自らの知事」が排除されたと憤り、抗議の声を上げたのだ。
現代のロシアでのデモ・抗議活動は、大きく四つのタイプに分類される。
第一は、自らの生活利益が削られることに対する抗議活動だ。このタイプは政治色が薄く反プーチンデモに発展することはなかった。
第二は、リベラル派野党・支持者らによる抗議活動だ。彼らの政治信条は欧米の考え方に近く、クレムリンはこれを危険なものと認識して、しばしば治安当局に実力で排除されている。
第三は環境汚染などだ。これもクレムリンは一定の譲歩をすることが可能で、地方政府に対応を命じることもある。
第四は、ジャーナリストのイワン・ゴルノフ氏が、麻薬を不法に所持していたという容疑を警察にでっち上げられ、逮捕された事件への抗議行動だ。政治色は薄く、クレムリンはこの逮捕は誤解に基づくものだったとの立場を取り、ゴルノフ氏は釈放されデモも収束した。
現在、ハバロフスクで行われている抗議活動は、このどれにも当てはまらない。反プーチンであり強い政治色を帯びているが、彼らはリベラル派勢力ではなく、政治信条が欧米寄りというわけではない。本来ならばクレムリンの支持層に重なる人々である上に、地域住民の多くが抗議活動に賛同している。
このため当局は対応に戸惑っている。デモは無許可で行われているが、警察当局は取り締まろうとせず、警官らも傍観するのみだ。政府の事実上の統制下にある主要メディアはこのテーマには触れず、何も起きていないかのように別のニュースを取り上げている。クレムリンは彼らとの対話に乗り出すか、実力で制圧するか、どちらにせよ政治的リスクのある解決法を選択せざるを得なくなるだろう。