ロシア、コロナ下で軍事パレード開催へ

直後に憲法改正の国民投票
支持離れに焦るプーチン大統領

3日、モスクワ郊外ノボオガリョボで、燃料流出問題に関するテレビ会議に臨むロシアのプーチン大統領(AFP時事)

3日、モスクワ郊外ノボオガリョボで、燃料流出問題に関するテレビ会議に臨むロシアのプーチン大統領(AFP時事)

 ロシアのプーチン大統領は、5月9日に実施予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け延期していた対独戦勝75周年軍事パレードを、6月24日に実施することを決定した。

 また、その後に、自身の通算5選を可能にする憲法改正を問う国民投票を実施する。支持率が下落傾向にある中、新型コロナの感染拡大下でも軍事パレードを強行し国民の愛国心を高め、憲法改正を実現する構えだ。
(モスクワ支局)

 一時は世界第2位だったロシアの新型コロナ感染者数は、ブラジルでの感染拡大を受け、世界第3位となった。6月9日時点での感染者数は49万3771人、死者数は6391人だ。プーチン氏は、感染拡大防止のために企業や学校などを休業させる「非労働期間」を5月12日に解除した。企業活動や学校などが再開し、食料品以外を販売する商業施設も動き出した。

 しかし、一日の新規感染者数は5月11日の1万1656人をピークに減少傾向にあるものの、6月9日からは8000人を超える日々が続いている。

 感染者数が最も多いモスクワの新規感染者数は5月7日の6073人をピークに減少し、6月9日は1195人。感染拡大の中心はモスクワから地方に移動した。医療が遅れる地方に深刻な状況をもたらしつつある。

 そのような中でプーチン氏は、コロナ感染で5月9日に実施できず延期となった対独戦勝75周年軍事式典・パレードを、6月24日に実施すると発表した。また、憲法改正の是非を問う国民投票を7月1日に行うことも決定した。

 依然として新規感染者数が8000人を超える状況の中で、なぜこのような決定を下したのか。それは、支持率が低下する中で、自身の通算5選を可能とする憲法改正を、なんとしても実現しようとしているからに他ならない。

 ロシアの大統領任期は6年で連続2期まで。いったん首相に退き、2012年に大統領に返り咲き通算3期目、18年に4選を果たしたプーチン大統領の任期は24年に終わる。現在の憲法の規定では、次の大統領選に出馬できない。今回の憲法改正案は、現在までの大統領経験者の任期を、大統領の就任回数制限に含めないと規定する。プーチン氏によれば、現職の大統領を含むすべての人々に対する制限を撤廃し、将来の開かれた自由選挙への参加を認める、ということらしい。

 ものは言いようだが、この憲法改正によりプーチン氏は次の大統領選への出馬が可能となる。次回、次々回とも勝利すれば、36年まで大統領の座にあることになる。

 ロシアの主要輸出品である原油の価格低下や、クリミア併合を受けた欧米の対露経済制裁などにより経済は低迷し、国民の実質所得は6年連続で低下している。これに新型コロナの混乱が加わり、プーチン大統領の支持率は下落。4月、5月と2カ月連続で、過去最低の59%となった。

 原油価格の先行きは不透明であり、新型コロナによる経済活動制限の影響は、これから本格的に表面化する。支持率がこれ以上低下する前に、なんとしても憲法改正を実現したい。そのためには感染拡大が続く中でも対独戦勝記念軍事パレードを実施して国民の愛国心を高揚させ、その勢いの中で国民投票を行うシナリオだろう。憲法改正を問う国民投票は、電子投票も可能にし、さらに、実施日を7日間に拡大する。「投票所の混雑を避ける」ことが理由という。

 ロシアのテレビは連日のようにモスクワやサンクトペテルブルクでの軍事パレードの訓練や、式典の準備の様子を報じ、祝賀ムードを高めている。ベルゴロド州、オリョール州、トムスク州、そしてペルミ地方は「住民の健康を守れない」として戦勝記念日の式典開催を拒否したが、クリミア共和国とセヴァストポリ市を含む81の地方は盛大な式典を挙行する。

 未来は誰にも分からない。24日までに感染拡大が止まっていれば、対独、対コロナウイルスの二つの勝利を祝うことになるだろう。しかし、その可能性は低い。プーチン大統領の通算5選と引き換えに、人々の健康、そして経済に大きな傷痕が残るだろう。