露のコロナ感染者数、世界2位に
ロシアのコロナウイルス感染者数が急増している。13日までに感染者数は23万人を超え、米国に次いで世界で2番目に多くなった。政府の対応の遅れに批判が広がり、プーチン大統領の支持率は低下。国民の不満の矛先を欧米に向けさせる手法も行き詰まりつつある。
(モスクワ支局)
政権浮揚行事が延期・縮小
欧米敵視政策も行き詰まり
プーチン政権は4月から5月にかけて、政権浮揚のための二つのイベントを計画していた。憲法改正を問う国民投票と、対独戦勝記念日の一連の行事だ。経済の悪化で国民の実質所得が6年連続で低下する中、政権の主要支持層である高齢者、年金生活者、農民、地方在住者など保守層にてこ入れを図る狙いがあった。
改憲案には、領土割譲を禁じる条文を加え、ロシア語を「国家を構成する民族」の言語であると明記した。また、ロシア正教を念頭に置いた信仰への言及など、保守層・民族主義者らの価値観に沿った内容を盛り込んだ。
5月9日の対独戦勝記念日は第2次大戦後75年という節目の今年、例年以上に盛大な行事を催して愛国心を鼓舞し、政権の求心力を高める構えだった。しかし、コロナウイルスの感染拡大により、改憲を問う国民投票は延期となり、対独戦勝記念式典は規模を大幅に縮小することになった。
赤の広場での軍事パレードは中止し、クレムリンに隣接する無名戦士の墓でプーチン大統領が記念スピーチを行った。その後、75周年を記念した75機15編隊のヘリや攻撃機、爆撃機がモスクワ上空で「航空パレード」を実施したが、外出制限で経済が悪化し失業者も急増する中でのカネの無駄遣いとして、国民の批判を浴びた。
ロシアの感染者数は指数関数的に拡大し、13日時点で23万人を超えた。うち12万人はモスクワの感染者だが、地方での感染も増えている。モスクワの人口約1250万人のうち、約300万人は地方からの出稼ぎ労働者や学生とされる。外出制限や企業・教育機関などの休業を受け、これらの人々が帰郷し、ロシア全土に感染が広がることになった。
特に深刻なのは、ロシアの基幹産業を支える石油・天然ガスの採掘基地や鉱山・炭鉱でクラスター(感染者集団)が多発していることだ。労働環境が劣悪な上に、住み込みの労働者が一定期間で交代するシステムが原因だ。労働者らは政府に対応と支援を要求したが実施されず、各地で抗議行動が広がっている。
政府は、事業者らに対し納税の猶予や雇用維持のための特別融資(返済期限6カ月以内)、不動産賃料支払い猶予などの支援策を実施している。しかし、その一方で3月25日、100万ルーブル(約146万円)を超える銀行預金の金利に対する税(税率13%)を導入すると発表した。ロシアの主要輸出品である原油の価格が大幅に下落し、財政が悪化する中で“無い袖は振れない”ということだが、「支援した分を回収するのか」と、国民の反発を招いた。
感染拡大を受け、プーチン大統領は執務場所をクレムリンからモスクワの公邸に移し、テレビ会議で閣議を行っている。公邸への移動は「感染防止のための行動」といえるが、これまでの“強い指導者”のイメージを弱める結果となった。
さらに興味深いのは、プーチン政権が進めてきた欧米敵視政策が行き詰まりを見せていることだ。これまで「ウクライナのクリミアを併合したのは正当な行為だが、欧米は制裁を発動しロシアを締め付けている」という理屈で、ロシア経済の悪化の責任を欧米になすり付け、愛国主義を鼓舞し政権浮揚につなげてきた。
しかし、パンデミック(世界的流行)による経済悪化は欧米のせいではない。また、コロナウイルスで苦しんでいるのは欧米も同じだ。危機を克服するには欧米と協力すべきである。このような考えが国民に広がる中、プーチン大統領の支持率は3月の65%に対し、4月は61%に低下した。政権浮揚の“公式”が使えなくなった今後の出方が注目されている。