露とウクライナ、天然ガス通過料契約更新で合意
ロシアとウクライナの関係に新たな動きがみられる。親露派武装勢力との紛争が続いていたウクライナ東部での停戦と捕虜交換、兵力引き離しで合意したことに続き、ウクライナを経由しロシア産天然ガスを欧州に運ぶパイプラインの通過料契約の更新でも合意に至った。
(モスクワ支局)
背景に米国の圧力
ロシアからバルト海の海底を経由しドイツに至る「ノルド・ストリーム2」天然ガスパイプライン計画。ロシアの主要輸出品の一つである天然ガスを、ウクライナなどを経由せず直接欧州に供給する目的で建設が進められている。すでに同じルートで稼働している「ノルド・ストリーム」を増強するプロジェクトだ。
この「ノルド・ストリーム2」の建設にブレーキをかけたのが米国である。
「ノルド・ストリーム2」の建設に投入されている世界最大級の海底パイプライン敷設船パイオニアリング・スピリットは、水深500メートルの海底に1日当たり5キロメートルのパイプラインを敷設することができる。この敷設船を所有するスイス企業オールシーズに対し米国は12月21日、制裁を発動。直ちに作業を停止するよう要求したのだ。
オールシーズはこれを受け入れ、作業を停止した。2020年前半に見込まれていた「ノルド・ストリーム2」の完成は先延ばしされた。
ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムにとってこの事態は、ウクライナを経由する天然ガスパイプラインなしでは欧州の顧客に対し、天然ガス供給の義務を果たすことができないことを意味する。そして同時に、欧州の顧客に対し、多額の違約金を支払うことを意味する。
ウクライナを経由する天然ガスパイプラインの通過料に関するロシアとウクライナの契約の期限が2019年末だった。この通過料はウクライナにとって極めて重要な収入源である。同国は2019年、850億立方メートルの天然ガスを通過させた対価として約32億ドルを受け取った。ウクライナの国内総生産(GDP)の約2%に相当する金額だ。
これに対しロシアは、ノルド・ストリーム2の完成を見越し、ウクライナの足元を見た交渉を続けていた。
米国の制裁により立場が逆転した両国は12月30日、新たな契約で合意した。これによりウクライナは2020年から24年の契約期間中、2019年と同じ年間850億立方メートルの天然ガスを通過させた場合、これまでの10%増しの35億ドルの対価を受け取ることになった。
ウクライナの人々はゼレンスキー大統領の大きな勝利として、この新契約を歓迎した。しかし、そこはしたたかなロシアである。構図はそれほど単純ではない。
これまでロシアは、ウクライナを経由し欧州の顧客に向けた天然ガスの輸出に責任を負っていた。しかし、新たな契約では、ウクライナ国内のパイプラインの故障、事故などについてロシアは一切の責任を負わない。保守管理などは100%、ウクライナの責任となった。
ウクライナ国内のパイプラインで事故や故障が発生し、欧州の顧客に対する供給に問題が発生した場合、今度は欧州の顧客に加えロシアがウクライナに、違約金や補償を要求する立場となった。
老朽化が進む一方で、ソ連崩壊後の混乱などでメンテナンスや更新が進まなかったパイプラインは、その85%が耐用年数を超えている。ウクライナを経由するパイプラインでもこれまで、さまざまな事故や故障が起きている。これまではロシアがその保守に重要な役割を果たしていたが、今後は突き放した対応をするだろう。ウクライナ東部紛争をめぐり、親露派武装勢力とウクライナ政府の停戦で合意し、双方の捕虜交換が実施された。しかし、武装勢力支配地域とロシアとの国境管理権のウクライナへの引き渡しや、支配地域への「特別な地位」と呼ばれる自治権の付与については結論が出ていない。停戦合意がいつまで継続するかは予断を許さない。