新たな欧米制裁警戒する露政府

 ロシアの財政健全化が進んでいる。金・外貨準備高は5430億ドルに達し、サウジアラビアを超え、中国、日本、スイスに次ぐ水準となった。欧米による新たな制裁を警戒しているためではあるが、外貨準備を増やす分、経済活性化に使われる資金が減る形であり、景気の低迷は今後も続く見込みだ。
(モスクワ支局)

外貨準備で経済自立化目指す
健全財政優先、景気低迷続く

 国民の間で楽観主義が増加している―。クレムリン寄りのメディアは、全ロシア世論調査センターが10月に行った調査結果をこう分析し報道した。

プーチン大統領

9月5日、極東ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」で演説するロシアのプーチン大統領(AFP時事)

 10月の調査では、経済の状況について37%が「まずまず」、18%が「良い」、2%が「とても良い」と回答しており、合計すると57%が肯定的な評価を与えたのだ。

 昨年10月の同じ調査では58%が同様に回答していたが、今年初めの調査では50%まで減少していた。だから楽観主義が増加している、という分析になるのだという。

 しかし、同じ調査で48%が「未来に不安を感じている」と回答している。昨年10月の調査では50%だったので、確かに2ポイント減少したのだが、ほぼ半数が未来に不安を感じていることに違いは無い。

 全ロシア世論調査センターのフョードロフ所長は、肯定的な評価が増加した理由について、次のように分析している。「(国民の強い反発を招いた)年金改革はすでに決着が付いた。外交でも大きな先鋭化は起きていない。さらに、いくつかの国家プロジェクトが動き出し、地方にカネが落ち始めている。物価上昇のペースも鈍化してきた」

 ただ、「今後も楽観主義が増加するか」との質問にフョードロフ所長は「それは国民の給料が増えて生活が向上し、新たな経済制裁が起こらないことが条件だ」と答えている。

 ロシア政府は年金改革や付加価値税の増税などを通じて財政健全化を進めており、さらに、金・外貨準備をさらに厚くしている。ロシア経済の独立性を高め、新たな制裁が行われた際にもデフォルトなどに陥ることを防ぐためである。

 2014年にロシアがウクライナのクリミアを併合し欧米からの経済制裁を受けて以降、ロシアの経済運営で最も優先されるべきことは、これになった。

 欧州の専門家によると、ロシアは欧米の経済制裁により8000億ルーブル(約1兆3600億円)を失った。しかし、ロシア経済の低迷は、経済制裁が実施されなくても不可避だったと言える。

 というのも、ロシア経済が減速したのは、14年に経済制裁が開始される以前に遡(さかのぼ)るからだ。12年の経済成長率3・7%に対し、13年は1・8%。そして14年に0・7%となった。その後は15年にマイナス3・7%、16年にマイナス0・2%、17年にプラスに転じ1・5%を記録。18年に2・3%、19年1月から6月は0・7%という数字だ。

 その原因について、ロシアの主だった経済専門家(セルゲイ・グラジエフ大統領顧問など)は、構造的な理由と結論付けている。人口減少、政府による経済の過剰なコントロール、民間セクターの不活発さ、などがその主因という。

 だからこそ積極財政による経済刺激策を進めるべき、との声も上がるが、ロシア政府は堅実な財政運営を基本として譲らない。財務省は20年から22年にかけて、6兆6000億ルーブル(約11兆2200億円)を外貨準備に投じる計画だ。

 当然、外貨準備に資金を費やせば費やすほど、さまざまな国家プロジェクトに投じる資金は減少する。ロシアの経済発展に回るはずの資金が引き出され、外貨準備に変わっているのだ。

 ドル建ての資産こそ減少しているが、人民元とユーロ建ての資産が増加している。見方を変えれば、ロシアは自らの経済成長を犠牲にしながら、外国を“養って”いるとも言える。

 もっとも、その状況をもたらしたのは、ほかでもないロシア自身である。自ら招いた経済制裁に打ち勝つために、経済・財政の自立を強化せざるを得ない。それ自体は悪いことではないが、緊縮財政により国民経済に資金が回らず、稼いだ資金の多くが外貨準備に費やされることになる。