ボルトン氏解任で米イラン交渉を楽観視するイスラエル紙ハーレツ

◆イラン側は慎重姿勢

 ボルトン米大統領補佐官(安全保障担当)の解任直後から、膠着(こうちゃく)状態にある北朝鮮やイランと米国との関係の改善につながるのではないかという期待が伝えられ始めている。

 イスラエル紙ハーレツは早速、「ポスト・ボルトン、米国は交渉の用意があるが、イランはまだ控えめ」と米イラン関係の今後を予測している。対イラン戦線で米国と共闘するイスラエルの右派ネタニヤフ政権にとって米イラン関係の動向は、大きな利害をはらむ。さらに、サウジを中心とするアラブ諸国の反イラン連合もこのところほころびが見え、中東全体にまで影響が及ぶ可能性がある。

 ハーレツは、「米イラン間の接触を阻んできた主要な障害が取り除かれたことは、希望への出発点となると見る向きもある」と、ボルトン氏解任が両国間の交渉開始へ弾みになると楽観的な見方を示している。ハーレツは、イランのロウハニ大統領に近いアラグチ外務次官が、8月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)以後、「米国が原油問題で柔軟な姿勢を示している」と語るなど、米国が態度を軟化させていると指摘する。

 一方、交渉開始に対してイラン側は慎重だ。ロウハニ大統領は、「交渉の呼び掛けはあったが、回答はしない」と当面は交渉は望まないという姿勢だ。

 同紙は、ボルトン氏が解任され、ポンペオ国務長官が前提条件なしの交渉を求めたが、イランを交渉のテーブルに着かせるには「不十分」と指摘。イランの要求はあくまでも制裁の解除だからだ。

 イランの戦略は、ウラン濃縮を進めるなどして核合意から段階的に退くことで、合意署名国の欧米諸国に圧力をかけることだ。だが、「引き返せないところまで進めてしまう」と欧米の反発を招き、逆に経済的、軍事的圧力が強まるリスクもある。

◆ジレンマ抱える米国

 一方の米国もジレンマを抱えるとハーレツは指摘する。トランプ氏の「最大限の圧力」が逆に自身の首を絞める結果になる可能性があるからだ。譲歩の姿勢を示し、一方的に圧力を弱めることは、米国の弱さ、敗北と捉えられかねず、力を背景に外交を進めてきたトランプ政権にとっては致命的だ。

 さらに、米国、イラン両国の大統領選という要因もある。

 イラン大統領選は2021年。ロウハニ大統領はイラン核合意をまとめるなど、米国などとの交渉にも積極的に取り組んできた穏健派で、最高権力者であるハメネイ氏からも信頼されている。そのロウハニ師は今期2期目で、規定により次回大統領選には出馬できない。

 そのため、「トランプ氏がイランと交渉したいなら、ロウハニ師が大統領職にある間の方がいい」とハーレツは指摘する。一方で、イランにとっては、トランプ氏が大統領選で敗れれば、少なくともトランプ氏よりは「交渉しやすくなるとイランは見ている」という。

◆中東全体に劇的影響

 さらにハーレツは、「両大国の交渉は、中東全体にも劇的な影響を及ぼす可能性がある」と指摘する。

 ネタニヤフ政権は、トランプ政権と共に対イラン強硬政策で連携してきた。そのため米イラン間の融和は、「現在の強硬な対イラン政策の崩壊を招き、シリア、レバノン、イラク内のイラン系勢力に対する軍事行動も制限される」ようになるからだ。

 さらに、サウジ主体の反イラン連合にも影響は及ぶ。

 サウジとアラブ首長国連邦(UAE)は、イランの支援を受けるイエメンのシーア派勢力と闘ってきた。ところが既に、イエメンをめぐってサウジとUAEの関係に亀裂が入っており、米イラン融和によってこれらの結束が乱れるのは必至だ。

 「外交でスキルをほとんど示せていない」トランプ政権だが、ボルトン氏解任が中東外交での実績につながるかどうか予断を許さない。

(本田隆文)